読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

傷口にユーゲル

主にアニメとか漫画とか仕事のこと

電子書籍はすでに浸透し終わっている

「ぼのぼの」10円セールに感じるKindleと電子書籍業界の今後について - 傷口にユーゲル

実質この記事の続き。


電子書籍はなぜ浸透しないのか、という話題はたまに見るが、個々人でちょっと認識のギャップがあるようなので、私見を述べたい。




m.internet.watch.impress.co.jp


こちらの記事は、株式会社ジャストシステムの調査結果である。
このように、電子書籍市場はいまいち広がりきれず、まだまだ浸透に時間がかかる、という印象を持つ人は多い。

しかし、本当にそうだろうか。

記事内ではおおむね20%弱の人しか電子書籍を利用していない、という表現をしているが、この数字は決して少なくはない。


そもそもこの調査では、『本を読むが電子書籍は使わない人』と、『そもそも本を読まない人』が区別できておらず、純粋な市場の調査としてはやや情報不足だ。

それ以外にも問題はあるが、それは後述する。


普通の人間は本を読まない。


電子書籍を考える上で、この認識をないがしろにするのはやめるべきだ。



www.1book.co.jp


この電通総研の調査によると、1ヶ月に本を全く読まない、もしくは1〜2冊だけ読む、という人はなんと全体の80%を超える。

これは2009年の調査であるため、現在ではさらに割合が増加していると思われる。

ジャストシステムの調査とそのまま結びつけるのは乱暴だが、電子書籍を使わない人は、そもそも本を読まない――言い換えると、本を読む人はそこそこ電子書籍に手を出している、と思える。

なにしろ月に7冊以上読む人間は3.3%しかいない。
それに比べれば、電子書籍ユーザーが20%、というのは非常に多いと言えるのではないだろうか。

私は電子書籍推進派だが、さすがに月2冊しか本を買わない人なら、「電子書籍なんかやめとけよ」と言うと思う。


そもそも電子書籍のメリットというのは、何冊でも持ち運べ、場所を取らないという点が大きい。

さらに、セールを利用すればかなり安価に購入できるし、深夜でもすぐ買うことができる。


しかし、月に1冊や2冊しか本を買わないという人にとっては、これらのメリットは大した意味を持たない。

置き場所はどうとでもなるし、金額的にもセールのメリットは感じづらい。

なら、わざわざ電子書籍に手を出す必要もないと判断するのは当然である。


だから、最初のレポートについては、『なんと20%弱もの利用者がいる』という受け止め方が正しい。



さて、電通総研の調査では、漫画と雑誌が除かれている。
そのため、電子書籍のメイン市場である漫画の購入者数については、もう少し考慮が必要である。


www.garbagenews.net


こちらの記事では、漫画の読書量がまとめられているが、漫画に限定しても平均で月1.5冊程度だという。意外に低い。


ただし、これは平均値であるため、13冊以上という大きな括りの中に埋もれている、何10冊も読むごく一部のヘビーユーザーが隠れている可能性はある。


ともかく、『漫画を含め、本をある程度以上読む人間は希少である』という点に疑う余地はないだろう。


重要なのは、電子書籍業界(紙の本も同様かも)において、一部のヘビーユーザーが収益の大部分を支えているという構図である。


ここからは、電子書籍ストアの立場に立って書く。


www.zaikei.co.jp

そして、2015年度以降の日本の電子書籍市場は今後も拡大基調で、2019年度には2014年度の2.3倍の2,890億円程度になると予測している。


この予想はちょっと楽観的な気がするが、市場が拡大することは確かだろう。

では、誰の貢献でそうなるのか。


もちろん、『今現在本を紙でたくさん買っている層』である。

『本をよく読み、電子に抵抗の薄い層』は、すでに電子書籍を利用している。上記調査の20%の人たちである。

そしてこの先業界を進展させていくのは、『本を紙でたくさん買っている層』だ。

『紙の本を月に1冊しか買わない層』が参入してくるのは、そのずっと後である。


で、仮にその『本を紙でたくさん買っている層』が完全に電子書籍に移行したら、電子書籍ビジネスの収益構造はほぼ完成する。

利用されるストアは固定化され、これからの出版というコンテンツの方向性も決まってくるだろう。

その道筋が作られているのが、まさに今だ。


f:id:eno1432:20160410235004j:plain

http://marketingis.jp/wiki/イノベーター理論
有名なイノベイター理論の図を、こちらから引用させてもらった。

この理論によると、イノベイターアーリーアダプターと呼ばれる16%の人たちが、商品普及の呼び水となるらしい。

では、すでに20%の人間が利用している電子書籍は、スムーズに市場に受け入れられていくのだろうか。

残念ながら、そうではないだろう。


第一に、上記ジャストシステムの調査は、Fastaskというネットリサーチを利用しているため、そもそも『ネットを利用していて』『事前に登録した』人が答えたアンケート結果にすぎず、正確性では完全なランダム調査とは言えない。

おそらく、ネットを触らない高齢者などを混ぜて同じアンケートをしたら、電子書籍ユーザーの割合はもっと下がるだろう。
ただ、ややこしくなるのでそれは考慮しない。


第二に、アーリーアダプターとアーリーマジョリティの間に横たわる断絶である。

ここでは、前者が電子書籍ユーザー、後者が紙の本ユーザーに当たる。

アーリーアダプターまでは、けっこうな人数が集まっている。

しかし、アーリーマジョリティを引き込むには、深い深い溝を埋める必要がある。

具体的には、さんざん言われていることだが、『それほど安くない』、『目が疲れる』、『ページをパラパラめくれない』、『権利を買っているだけなので読めなくなる可能性がある』、『単純に紙が好き』といったような、電子書籍を使わない理由を潰すことである。


この層を引き込んだら、レイトマジョリティ、ラガードの出番だが、ここには国内人口8割の、本を読まない層が入る。
ここに到達するまでにはさらに大きな断絶があるが、はっきり言ってあまり関係ない。

上述の通り、収益の大部分をもたらすのは、アーリーマジョリティまでだからだ。


アーリーアダプター=電子書籍に抵抗のない人には、電子書籍は浸透しきってしまった。
これからは、『浸透させる』ではない。『首根っこを掴んで引きずり込む』必要がある。

それほどに紙の本は優秀で、完全にアーリーマジョリティ=紙の本ユーザーを引き込むには、なにかの起爆剤が必要になるだろう。


それが、画期的なサービスの開始になるのか、先進的なリーダーの開発になるのかはわからないが。

とにかく、アーリーアダプターまでの人間はすでに足りている。
あとは断絶を超える段階なのだ。


電子書籍ユーザーはたった20%しかいないと言うべきだろうか?

『もう20%にも増えてしまった』と言うべきである。


ところで、この20%の人たちは、どこのストアを使っているのだろうか。

2014年度の各ストアのシェアは、Koboが6.6%、Kindleが6.5%で並び、他ストアはだいたい2〜3%程度のシェアとなっている。

ictr.co.jp


また、ユーザーの4割は、複数のストアを使い分けているというデータもある。

私の場合、BookLive!、BOOK☆WALKER、KindleDMM.comの4ストアを使っている。
しかし、さすがに5つも6つもストアを掛け持ちしている人は少数派だろう。


ユーザーが一度ストアを使い始めれば、基本的にはずっとそのストアを使い続ける。当然である。

最初にトヨタ車を買った人がずっとトヨタに乗り続けるようなもので、入り口が重要なのだ。


しかしその入り口は、20%分埋まってしまった。


下位ストアがシェアを奪うには、本は紙で読む派の人たちを囲い込まなければならないが、電子に抵抗のない人に比べ、難易度は高くなるだろう。
黙っていても手を出してくれる人など、もう残ってはいない。


電子書籍が浸透するというフェイズは、すでに終わったと考えるべきだ。
お金を落としてくれるだろう潜在ユーザーは、貴重なのである。