傷口にユーゲル

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「魔法少女育成計画」6話感想

出血大サービス

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原作ネタバレあり。



・アバン

マジカロイドの本体、真琴ちゃんの日常。
コンビニバイトでもらった廃棄の弁当をホームレスのおっちゃんにあげたり、友達のレベル上げを手伝って家に泊めてもらうなど、なかなかのコミュ力を見せてくれる。
なにげにゲーム画面で悪魔を倒した時のエフェクトが、今回使っているワイヤーと同じなのが芸コマである。
しかしこの友達も、赤いランドセルに上履きを履いた少女型ロボットという、なかなか業を感じさせる趣味の彼氏を持っているようだ。


・そうちゃん対クラムベリー

「我が名はラ・ピュセル。森の音楽家クラムベリーよ。相手になろう」
「ここなら互いの力を存分に振るえる。正々堂々と戦おう」
このそうちゃんの台詞が切ない。この時点で、クラムベリーが自分を本気で殺しに来ていることに気づいておらず、『騎士の魔法少女』として正面から応えてしまった。最初から立っている土俵が違いすぎる。

しかし、それにしても、強敵との戦いを求めてつきまとっていたとはふるっている。ラ・ピュセルとしても望むところだ。こういうシチュエーションは嫌いではない。
強者を目指し、強敵を求む二人が出会い、全力を尽くし正々堂々と戦い、お互いを認め合う。漫画やアニメで度々目にし、そんな関係に憧れてきた。
-原作より-

殺陣のシーンでは、明らかにクラムベリーが剣を腕で弾いているのだが、服の前腕が籠手にでもなっているのだろうか。ミナエルの時のように、剣の腹で殴っているわけでもなさそうなので、クラムベリーの格闘術がそれだけすさまじいのだと思う。


・「私も、貴方同様に強者を求めています。求めている……そんな生易しいものではない。飢えているのです」

ここからのクラムベリー攻勢が見ていてけっこう心に来る。身体能力と経験の差を考えれば当然なのだが、本編通してほぼ初めての流血が生々しく、悲壮感を煽る。

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このシーンはかなり衝撃だった



・「僕は……僕は、こんなことがしたくて魔法少女になったんじゃない」

これまで『理想の魔法少女』を演じていたそうちゃんが、クラムベリーの前で初めて素の自分をさらけ出すシーン。血にまみれた顔と折れた角がきつい。
そして同時に、失望を露わにするクラムベリーの表情と演技が素晴らしい。

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「貴方には幻滅しました。死んでください」と告げるクラムベリーが、最初からそうちゃんとまったく別の視座に立っていたのだと、言葉以上に明確に語っている。

そして、クラムベリーの蹴りを素晴らしい反応で避けるそうちゃん。生命を燃やした反撃だった。

回想を挟みながらの突撃がとても悲しい。



・「クラムベリー、おまえのような者は、魔法少女と認めない」

強敵に一矢報いたそうちゃんの台詞。
この「認めない」という言葉は、軽く流してしまうには抵抗がある。
クラムベリーもまた、『認めない』ことでこの場所に立っているキャラクターだからだ。

従来のぬるい試験が許せず、自分のやり方で魔法少女を選別するために、数多くの魔法少女を直接・間接的に殺してきたクラムベリー。
彼女からしてみれば、ラ・ピュセルの方こそ、『認められない』弱い魔法少女なのだ。

クラムベリーにとって、『認められる』魔法少女とは、殺し合いに生き残ることのできる、強い魔法少女だ。それが彼女の背骨であり、決して曲がることのない信念ともいえる。

「戦いの末、強者が強者を知り、お互いを認め合う。認めていただけず、とても残念です」というクラムベリーの冷笑的な台詞は、もはやラ・ピュセルが彼女の眼中にないことを端的に示しているようで空恐ろしい。相手が強者でないのなら、認めるも何もなく、ただ踏み潰すだけなのだから。

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この先、ラ・ピュセルのことがクラムベリーの口に登ることはない。アニメでどうなるかはわからないが、騎士に憧れていたそうちゃんが、騎士道などとは無縁の戦いで死に、殺された相手にすら忘れられるというのが、とても皮肉である。



・ファヴの報告タイム

「悲しいぽん。つらいぽん」という台詞が奇跡的なウザさ。
また、ねむりんの時もそうだったが、肉親が悲しむ姿が映るのはなかなか心に来るものがある。



アイキャッチ
こうして見ると、やはり真琴ちゃんはけっこうな美人。ファンブックの変なイラストが描いてあるシャツは採用されなかったようだ。

アリスの方も、ここで魔法と人間の名前が公開。第1話のクレジットで、『亜子』という名前はすでに出ているので、そこまで観ている人にとっては、1話の鍵なくした子=アリスという図式が明確になった。
原作ではおばさんの家ではなく、おじさんの家で暮らしているのだが、意味的には同じことだから、変更というほどでもないだろう。『おじさんの家で暮らしている』という表現が、何かのラインに触れたのかもしれない。



・独り鉄塔の上でチャット報告を見るスノーホワイト

画面が傾いているのが、彼女の心情をよく表している。

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まさかそうちゃんの一撃で傾いたわけではないだろう



・「あんたは強いやつと戦ってりゃ満足なんだろ?」

ぽんぽん言うのをやめたファヴ。結局ウザいことには変わりない。
この会話で、ファヴの目的が殺し合いを見ることであり、クラムベリーの目的が強敵と戦うことであることが説明された。実際のところは、クラムベリーは『試験を行う』という点も重視しているのだが、基本的には上記の目的を持っているという認識で視聴者的には問題ない。



・アイテム配布

「強いアイテムを作るにはそれだけの代償が必要だぽん」
これらのアイテムは『魔法の国』の日用品のはずなのだが。実際どういうルートで入手してきたのか気になるところだ。
寿命が必要というのはファヴが勝手に設定した代償だろうが、試験官だからといって魔法のアイテムが自由に手に入るわけではない。まさかとは思うが、元の持ち主を闇討ちして集めたものじゃないだろうな。

ダントツに代償が大きい『透明外套』が、クラムベリーに無効というのがまたいやらしい。『四次元袋』も、有効に使える者はかなり限られるだろうに、どういう基準で選んだのだろうか。

また、アリスはスノーホワイトを探して東奔西走している間に、ちゃんと兎の足を入手しているのが偉い。目的以外のものはあまり見えなくなるタイプかと思いきや、そのへんしっかりしている。

スイムスイムは、真っ先に寿命25年を払って『透明外套』を入手した。ルーラだったら、まずできないだろう選択だ。
本編では描かれていないが、その後、メンバーを説得し、担当するアイテムを決め、寿命を払わせるという行動を迅速に行っているのがすさまじい。実質ソロパーティのメアリやアリスとは訳が違う。多少悩んだが、スノーホワイトですら購入するつもりだったのだ。結果として5個中3個のアイテムを独占できたことになり、非常に優位を得たといえる。歪んではいるが、スイムスイムのリーダーとしての決断力と統率力は、目を見張るものがある。

実際、スイムチームは人数こそ多いが、戦闘力はスイム以外基本的にゴミである。何かしらの補助がなければ、苦しいのは確かだった。

だが、「その外套は、あなたの魔法に合う。この武器は、私の魔法に合う」と言っている通り、『透明外套』とたまの魔法のコンボは極悪の一言である。クラムベリーとアリス以外の全員を、これ一本で始末できるレベルだ。即座にそれだけの判断を行い、実行できるスイムスイムの知能はとても7歳児とは思えない。

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最終兵器たま

余談だが、一見すると一番使えなさそうな『元気になる薬』が、実は最も活躍したのだと考えると面白い。これがなかったら、クラムベリー戦でのたまは即死だったかもしれないのだ。

あと四次元袋は、なんとなくマジカロイドが持っていたほうが似合いそうだ。



・曲がった標識を撤去するリップル

手裏剣の拡大解釈。宙に浮いているところから加速して目標に向かっていくのが、なんか格好いい。
「だがねリップルちゃん、俺に追いつける魔法少女なんていねーっての!」というトップスピードの台詞も格好いい。

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貴重な抱きつきシーン



・マジカロイド44の襲撃

スノーホワイトの精神が心配になってくる衝撃の連続。
マジカロイドは『まあ普通にクズ』くらいのキャラなので、ここまで掘り下げてくれたのは嬉しい誤算だった。早期に殺し合いを予期し、カラミティ・メアリに取り入るなど、目端の利くところが新たな魅力になったし、新井里美の演技も非常にハマっていた。いちファンとしてとても満足だ。

ハードゴア・アリスの方は、そうちゃんの戦闘以上に赤色が飛び散っていて、制作側の覚悟のようなものが伝わってくる。首が落ちた後は、切断面を強調しないようにカメラを首から下に合わせたり、スノーホワイトの瞳のハイライトでごまかしたり、なかなか匠の技を感じる。安易に黒塗りを多用しないのは、非常に好感だ。

それにしてもこの瞬間、アリスは数少ない『魔法少女を殺した魔法少女』となったのだが、それが彼女とスノーホワイトがなかなか親しくなれない理由となったなら悲しい。
しかし、この時点ではクラムベリーの次に殺しをした魔法少女という属性は拭い難い。本人は『自分を攻撃した相手を倒した』という認識(そもそもマジカロイドのルックスがアレなので、人間を殺したという意識は変身が解けるまでなかったかもしれない)なのかもしれないが、スノーホワイトにとっては、『目の前で人を殺した得体の知れない奴』という認識でも不思議ではないのだ。

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なんとなく綺麗なシーンに見えてしまうから不思議



●まとめ
原作でまったく描写のないラ・ピュセルとクラムベリーの戦闘が描かれたのは賛美両論だろうが、個人的にはかなりプラスの効果があったと思う。
身も蓋もないことをいえば、この先クラムベリーの戦闘シーンはスイムチーム戦で終わりなので、彼女の強敵感を出しておくためにも必要だったと思える。
ただそれだけではなく、そうちゃんの心情描写と、それを踏みにじるクラムベリーという対比がここで提示されたのは大きな意義がある。『清く正しく美しい』、理想に向かっていこうとする魔法少女が殺されたという事実が、スノーホワイトの絶望と再起につながっていく。
魔法少女』というものに真摯に向き合おうとしている本作が、終盤に向けて撒いた種だと思っている。


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