傷口にユーゲル

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「オゲハ」3巻 人じゃないものとヒトじゃないもの

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オゲハ3 (it COMICS)

オゲハ3 (it COMICS)

3巻(最終巻)が出ていたので、読んだ。

最初に言っておくと、この作品は終わり方を失敗している。
このラストを選択するのなら、もっと時間をかけてキジとオゲハというキャラクターを描いていかなかればならなかった。

2巻のラストから1冊分だけの尺ではとても足りていない。もう少し紙幅が取れていれば、印象も変わっていたと思う。

以下、ネタバレ感想。


前巻で自分を繭から引きずり出したのが主人公の智(キジ)だとわかったオゲハ。イモムシたちに連れられて、盲目のホームレスの棲家に匿ってもらうことになった。

キジが嘘つきな悪いヤツだと知って涙を流すオゲハ。「お腹空いたら戻って来るか」と、いつものようにあっけらかんとしたキジ。

そんな2人はしばらく離れたままで過ごすが、最終話で、オゲハはキジを助ける形で彼のもとに戻る。
後日談で描かれるのは、最終的に仲良くなり、一緒にゲームしたり、公園に出かけたりするようになった2人の姿だ。いつまでも幸せに暮らしましたとさ、というやつだ。


しかし、いち読者として、この展開にはついていけない。
少なくとも1、2巻では、キジはオゲハをこうまで探し回り、受け入れるキャラクターではなかった。

では、何が彼を変えたのかというと、ミーちゃんが死んだことくらいしかない。友達の飼い猫の死に触れて、オゲハが死んだかもしれないと悟り、これまで隠れていた情が浮かび上がってきたと読み取るしかない。

だがそう捉えるには、キジのこれまでの行いが重すぎた。この時点ですでに彼の評価は、無慈悲なサイコ野郎でしかない。それを単行本1冊で覆すには、キジが事故で頭を打って生まれ変わるくらいのインパクトが必要だ。

キジがオゲハを虐げること自体が悪いわけではない。それをあっさりやめ、態度をまるっきり変えてしまう理由付けがないのが問題だ。

作者があとがきで、「元々感情を表に出しにくい人が好きで、そうゆう人は何も感じてない、悲しんでないって思われがちなのが不満だったので(後略)」と書いているが、キジはそういうレベルではない。最後の最後で(こいつって、もしかして蝶じゃなかったりして…)などと考えているのもズレているが、『内面が表情に出ない』というハンデを克服できていないのが主人公として致命的だ。こういうキャラクターは、相当丁寧に描写しなければ浮いてしまう。平たく言うと、ヒトとして見られない。

2巻までは、その点を補っていたのがオゲハだった。キジよりもよほど人間らしく、こちらに感情移入して読んでいくということができた。

しかし、3巻でのオゲハは、キジの本性がわかっていながら、自分を探す彼の姿を見て、イモムシたちの下を去ってしまう。そして、キジが攻撃されたため、空に浮かぶ球体ごとイモムシと、自分の卵たちを殺害する。

一言で言ってしまえば、『恋は盲目』ということなのだが、オゲハが地球外生物であることが、ここで足を引っ張る。『やっぱり宇宙人の考えることはわからん』と思えてしまうのだ。

実際、盲目のホームレスに関する事件で、『人間はクソだ』と心底理解したはずのオゲハが、雨の中自分を呼ぶキジを見ただけで心変わりしてしまうのは不自然だ。また、屋上に置かれた卵を助けようとするキジも、ストーリーの都合で動いている感が強い。

これまでオゲハ視点に立っていた読者は、こうして戸惑いにぶつかってしまう。ただただ、『惚れた弱みでやってしまった』ということで説明はできる。だが、これは普通の恋愛ものではなく、宇宙人と人間のドラマだ。『オゲハはやはり精神が人間とは違う』という解釈は、非常に自然に湧いてきてしまう。

そしてキジの方は、前述したとおり、とても感情移入をできるキャラではない。オゲハは明らかに人間ではないが、キジは内面が人間離れしている(少なくともそう見える)。オゲハにもキジにもつけなくなった読者は、ひとまず2人の関係を俯瞰して接することになるが、そこで物語が終わってしまう。

キジの内面が変化する様子が見られないまま、駆け足で畳まれていくストーリーに、置いてきぼりにされてしまう気分は拭い難い。
言ってしまうと、この漫画は『人外と人間との交流』の話だったのだが、『人外同士の交流』という状態で終わってしまった。人間が存在しない話を面白くするのは、非常に難しい。


せめてあと1巻分余計に尺が取れていたら、だいぶ違ったものになっていただろう。もしくは、当初の予定通り、1巻でまとめ切れていればよかったかもしれない。
雰囲気のある作品だったので、少し残念だ。