傷口にユーゲル

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解放奴隷は広告付きの絵本を抱いて眠る

例の絵本が無料公開になったというので、読んでみた。


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純真な心を忘れてしまって久しい私にはあまりピンとこなかったが、イラストはさすがに素晴らしく、画集として持っていても損はなさそうだと思う。実際、大人がおしゃれアイテムとして購入してもおかしくはない。


また、無料公開といいつつ公開場所がSpotlightで、しっかり広告収入が入っているだろうということはまあとりあえず流しておく。



私が気になったのは、小学生からの「2000円は高くて買えない」というコメントがきっかけで、「『お金』にペースを握られていることが当たり前になっていることに猛烈な気持ち悪さを覚え」、無料公開をしたというあたりだ。


1つ目に、お金のことについて。

まず、この「えんとつ町のプペル」という本はクラウドファンディングにより、3293人から1013万1400円を集めて作られている。氏がたびたび書いている、『信用』という財産により、元手になるお金を得たわけだ。

さらに、毎日新聞の一面に個人で全面広告を打ったり、自分の絵本1万冊を自分で買い取って、初版を3万冊にしてもらったりしている。
また、絵本のギャラリーを無料で開放するために、ふたたびクラウドファンディングを行い、4000万円超を集めてもいる。


スタートの時点からお金の力をブイブイいわせてプロデュースされた「プペル」は、万札で武装した状態で3293人超の人間に担がれ、本屋とウェブストアに踊りかかっていった。


「プペル」が数千万円単位の実弾を伴って世に出たことは、23万部も売れた要因のひとつであることに疑いはない。


お金の力をふんだんに使って成功した上で、お金に嫌悪を持っているような書き方をするのはどうなのだろうと思う。有名になるのに貢献してくれたわけだし、そんなに邪険にしなくてもいいじゃないか。



2つ目に、公開先による絵本のクオリティについて。


件の小学生に対して、もう2000円は必要ないと言ってくれているが、実際にサイトにアクセスすると、冒頭にすごく即物的な広告がくっついてきて、気がそがれること甚だしい。PCでは表示されないが、今の子供が使うならスマホタブレットだろう。そもそもPCで本は読みにくい。

イラストについても、解像度はまあ見れるかなくらいのもので、さすがに『絵』本としては物足りなさがある。

そしてそもそも電子なので、紙の本と違い、根本的に読み味が異なる。



これを「無料になったよ」と小学生に与えて、その子が満足するのかはちょっと疑問だ。少なくとも、寝る前にベッドの中へ持ち込む本としては似つかわしくない。

西野氏は『体験』を与えることを大事にしているが、ここでは所有することも友達に貸すこともできない。もちろん無料でそんなことができるわけがないのだが、中途半端に商品を提供することで、かえって不満を持ってしまう可能性もある。

結局、無料であるということの不自由さを知るだけかもしれない。そしてそういった教材としては有能ともいえる。




実際のところ、西野氏もこうして公開した絵とテキストのぶつ切りが、2000円で売っている本と同じ価値のものであるとは思っていないだろう。

次回作の構想もあるようだし、実験的な宣伝というのが正しそうだ。

出版社がOKしているなら、売り方は自由だし、無料公開して私みたいな釣られやすい人に取り上げてもらうのは確かに有効だろう。


上でお金に嫌悪感を持っているような――と書いたが、氏は金をうまく使っていると思うし、金を稼ぐことを否定しているわけではないので、ただマーケティングのやり方が悪目立ちしているのだといえばいえる。


自分の心理を端的に言う。

ただただ、潤沢な資金を活用し、お金と友達になっているような人が『お金の奴隷解放宣言』と銘打っているのがムカついただけだ。


妄想銀行 (新潮文庫)

妄想銀行 (新潮文庫)

この件で、本書収録の「住宅問題」がちょっと思い出された。
無料の代わりに何をするにも広告が出てくる住宅の話。