傷口にユーゲル

主にアニメとか漫画とか仕事のこと

個人的に好きな平成アニメを振り返る(1989年~1999年)

そろそろ平成が終わるらしいので、平成とともに生きてきた人間の一人として、これまで見てきた平成アニメを振り返ってみる。


さすがに30年間は長いので、3分割で。



スレイヤーズ
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スレイヤーズのTV3部作は、オリジナルキャラの投入や原作のダークな部分をスポイルしているという点で、現代のアニメ化からすれば炎上ものの作りかもしれない。
それでも、キャラクターの魅力というのはそれらを些末な瑕疵にしてしまう。TV版のリナは原作よりもやや好戦的で思慮が足りていない部分はあるが、逆にそれはそれでアニメ版のリナとして新しい魅力を作り上げたともいえる。

ガウリイの脳みそがあまりにクラゲすぎたり、アメリアが子供っぽかったり、ゼルガディスがお茶目――なのは原作通りだが、とにかく原作のテイストを残すことに一定の価値が置かれる現在と違い、ある種のおおらかさが生んだ、時代の寵児なのだろう。

白蛇のナーガとの関連性を匂わせる衣装と笑い方のマルチナも、ガウリイと同等の剣技を誇るザングルスも、メイス使いドラゴンのフィリアも、なんだかんだでパーティに馴染んでいるからまあいいじゃん、という軽さがスレイヤーズのキモでもある。
軽いといえば、どのシリーズでも基本ストーリーとは別にギャグメインの1話完結エピソードが続くことがあったが、帰省してTVが見られない人たちのために、盆休みの期間は見逃しても大丈夫なシリーズ構成にしていたらしい。優しい。

そのおかげで、完全オリジナルのエピソードがいくつか生まれたのだが、やはり「乙女の祈り」を生み出したのが最大の功績だろうか。個人的にはドラゴン料理を作る回が好きだった。
忘れられがちだが、各シリーズのサブタイトルが凝っているのも特徴。こういう遊び心があるのも魅力である。

ところでつい最近、原作小説の続刊が刊行されたのも記憶に新しい。長編のストーリーは完全に終了していたのだが、ここにきて続きのエピソードが読めるというのは嬉しい驚きだった。



新世紀エヴァンゲリオン
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私にとってエヴァというと、2000年代初めに雨後の筍のごとく作られまくっていた二次創作小説の印象が強い。
内容は、旧劇場版後のシンジが記憶を持ったままTV版1話にまで巻き戻り、今度は幸せな結果を目指して奔走するというものが大勢だった。

今の異世界転生小説の走りと言っていい。当時でも、このジャンルは転生とか逆行とか最強シンジとか言われていた気がする。
エヴァを歩かせるのがやっとだったTV版の最初と違い、転生シンジは初っ端からシンクロ率90%とか出して使徒をボコっていく。サキエルがかわいそうになるレベルだ。

しかしそんなストレートな展開に、カタルシスを覚えるのも確かな一面だった。それくらい、TV版はともかく旧劇の終わり方は視聴者の胸にトゲを残していた。

ストーリー展開を放棄した投げっぱなしだとしても、美少女の転校生と街角でぶつかってパンツを覗くことを一つの可能性として肯定してくれ、「おめでとう」と祝福されるTV版は、救いの雰囲気だけはあった。
一方、人がバタバタと死にまくりシンジの覚悟は最後まで固まらず、「気持ち悪い」という一言で終わる旧劇は、我々の心を硬化ベークライトで固めるに十分なものだった。

アホほど解説本が出版され、社会現象と呼ばれるもなお鬱屈した感情を抱えていたファンの一部が、こうした創作にエネルギーを向けていたのだろう。私はそれに読者として参加した一人だ。

最後まで書き上げられずにエタった作品も数知れないが、長大な作品を見事に書き切った人もまた多かった。少なくとも、それだけ多くの視聴者を作り手に向かわせるだけの力が、エヴァにはあった。

小説ばかりで作品そのものにあまり触れられていないかもしれない。

好きなキャラは綾波レイで、好きな使徒は第14使徒ゼルエルです。



●機動新世紀ガンダムX

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90年代ガンダムとして印象深いのが、Xだという人は少ないかもしれない。

直前に放送されていたWと比較して、メカニックにちょっと類似点があるのもマイナスだろうか。主人公機の最大火力が強力なビームで、後継機ではそれが2門になるとか。実弾メインの射撃機が味方にいるとか。
とはいえキャラクターのキレっぷりはWよりだいぶ落ち着いている。それが物足りないという意見もあるかもしれないが、Wチームがフリーデンにいても、『ガンダムX』としてのドラマは生まれないのだ。

ガンダムXは、ニュータイプとオールドタイプの物語であると同時に、大人と子供、過去と未来の物語でもある。

本作の大人は本当にガンダムかと疑うくらいに人間ができており、ガロードを時にさりげなく、時に力強く導いてくれる。
ガロードガロードで、天涯孤独の戦争孤児であるという背景を感じさせない、年相応の純粋さと素直さを持つ好人物である。

ティファを守りたいという一心で戦い続けていた彼が、さまざまな出会いと経験を通じて戦争の残滓の象徴とも言えるガンダムに乗り、未来を紡ぐ意志を抱く。DXを受け継ぐ際に受け取った言葉を、最終話において「過ちは繰り返させない」という台詞で反芻させるのは、シンプルながらグッとくる演出だ。

ガロードはオールドタイプでありながら、ニュータイプになり切れず世界を恨むしかなかったフロスト兄弟を乗り越え、未来へと漕ぎ出す。ニュータイプでありながら、ニュータイプであることを捨てるという示唆を受けたティファとともに。

キャラクターのアクやフックは少ないかもしれない。しかし、そういうガンダムがあってもいいだろう。



機動戦艦ナデシコ
 劇場版機動戦艦ナデシコ-The prince of darkness-

劇場版 機動戦艦ナデシコ -The prince of darkness-


私にとってロボットアニメというものに強烈な印象を残した一作は、間違いなくナデシコである。
ダイゴウジ・ガイとかいう奇跡のキャラをはじめ、いい意味でぶっ飛んでいるキャラクターが意外なほど本格SFなストーリーを彩る。ロボットものであるにも関わらず、主人公のアキトが最後までパイロット技量が仲間内で最低だったり、エネルギー切れのためにコクピット以外のパーツを切り離しながら母艦への帰還を目指したりと、ちょっと外した展開や演出が好きだった。『記憶麻雀』などの先鋭的な表現も印象深い。

作中の固有名詞も格好良くて、『木星蜥蜴』、『ボソンジャンプ』、『A級ジャンパー』、『相転移砲』などなど、少年心を引っ掻いてくるものが多い。また、コクピット内のウィンドウがガンガン日本語を表示させたり、キャラクターに合わせてコメディチックに動いたりするのも面白い。そういった、『神は細部に宿る』的な演出をふんだんに見せてくれた作品である。

それに加え、サブタイトルやシステムウィンドゥのフォントが丸っぽかったり、「射程内にほとんど入ってる」とかいちいち表現がふんわりしていたりと、上記のような格好良さと相反するようで、うまい感じに調和が取れているのもすごい。

劇場版の暗さが引き合いに出されることがあるが、TV版も十分にブラックなストーリーである。矢島晶子がCVのパイロットが登場した次の瞬間には死亡しているなど、モブへの厳しさにも定評がある。

続編はほぼ絶望的なのはわかっているが、まだ続きを見たいと思い続けている作品だ。



少女革命ウテナ

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実は本編を通して見たのはわりと最近のことになる。
暗喩が多くて内容を理解するのには労力を要するが、ただ演出の格好良さに注目して見るだけでも面白い。

私が特に好きなのは、『黒薔薇編』と呼ばれる中盤のエピソードで、ここではすでに退場したキャラ、言ってしまえばモブと呼べるキャラクターたちが再びスポットライトを浴びる。
この黒薔薇編を見ることで、本作のキャラクターへ接する姿勢のようなものを感じた気がする。

つまるところ、ウテナというキャラクターはあまりに強すぎ、ヒロインとして魅力に溢れすぎているため、サブに控えているキャラクターはともすると印象が薄くなってしまう。そして、ウテナ自身もその強さ故に時に尊大さや傲慢さを周囲に漏らしてしまうことがある。

サブキャラはそんなメインキャラの傲慢さに平伏し、踏み台として埋没していくしかないのだろうか。そういった疑問へのひとつのアンサーとして、根室記念館は生まれたのかもしれないと思う。

ところでイクニ監督作品でしばしば見られる、シリアスなストーリーにコメディを混ぜ込む技法だが、本作でも七実様というすばらしいキャラが存在している。カウベル回は一見の価値あり。



∀ガンダム

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90年代ガンダムで後世に残す作品をひとつ選べと言われたら、∀ガンダムを挙げざるを得ない。

まず第1話でガンダムの影も形も見えないのが異質だが、その代わりに初めて地球へやってきたロランとキエル、ソシエ姉妹との交流や、初めて接する地球の自然といったものがロランの目を通して生き生きと描写される。

世界名作劇場ガンダムといわれるだけあって、そんな牧歌的な雰囲気が本作の魅力の一つである。

しかしガンダムらしく戦闘シーンもしっかり用意されており、最初の戦闘――遺跡として存在していた∀がウォドムに反応して動き出し、ビームライフルを撃つ場面はやはりわくわくする。

そんな緩急という点で、∀の存在は素晴らしい効果を生み出している。

初めて見る人は二度見必至の三日月型のヒゲはもちろんのこと、洗濯物を乾かしたり牛を運んだりする姿は、戦闘兵器というよりお役立ちアイテムという感じだ。そんな姿を見せておいて、いざ戦闘になれば意外なほど器用に動き、敵を翻弄する。

発掘されたハイパーハンマーを振り回したり、F91がやっていたようなビームサーベル回しを披露したり、いつの間にか飛行できるようになったり、過去作を思い起こさせるような部分もありつつ、『かつての兵器が次第に機能を取り戻していく』といった描写が面白い。

何より一度テクノロジーを放棄した世界を舞台にしているにも関わらず、根底にある人間への信頼のようなものを感じるのが、大きな魅力だ。∀だって、時代を拓けるはずだ。

黒歴史』という言葉を作り出したというだけではなく、多くの功績を果たしたアニメだと思う。


ROBOT魂[SIDE MS] ターンエーガンダム