『イジメてもいいアニメ』という暴力
いじられやすいアニメというのがある。
まとめサイトに『○○とかいう設定ガバガバアニメ』みたいな煽情的なタイトルで取り上げられたり、ニコニコ動画のコメントでひたすらツッコミを入れられている。
そういうアニメのことだ。
多くは脚本に難があったり、作画がイマイチだったり、視聴者への説明が不足していたり、そういう点をネタにしていじられてしまう。
確かにストーリー構成や考証が甘くて、話に入りきれないということはある。ついツッコミたくなったり、文句の一つも言いたくなるというのはよくあることだ。
しかし、それが高じると、ツッコミが行き過ぎてイジメになってしまう。そして、こいつはイジメてもいいアニメだという認識が広まると、そのフィルターがかかった状態でアニメを評価してしまうことがありはしないだろうか。
別に人格のある人間がイジメられているわけではないが、たまに目に余るようなコメントが付けられていると、ちょっと引っかかってしまう。
さすがに重箱の隅をつつきすぎじゃないのかとか、演出の関係で省いたり誇張したりしてるだけじゃないのかとか。
現実でもそうだが、一度『イジメてもいい奴』認定されると、すべてのアクションがイジメの対象になり得てしまう。
序盤あまりにアレすぎたとしても、中盤以降からとても面白くなるかもしれない。しかし、一度イジメられっ子になってしまったら、些細な一挙手一投足をあげつらわれ、されなくてもいいはずの減点をされてしまう。
そういう事実は、業界の息苦しさを増すだけなのではないかと思うのだ。
まったく文句を言うなというのではない。ただ、先入観に騙されて、不用意に心ないことを書いてしまってはいないか。批判ではなく、単なる誹謗や的はずれな中傷になっていないか。そういう心配をしてしまう。
では、具体的に私が『イジメられっ子』だと思ったアニメを例に出して考えてみたい。
●革命機ヴァルヴレイヴ
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ここ最近でイジメられ倒したアニメといえば、やはりヴァルヴレイヴが思い浮かぶ。
簡単に説明すると ヴァルヴレイヴと呼ばれるすごく強いロボットを秘密裏に開発していた学園が敵の軍隊に襲撃され、なんだかんだあって独立国家になることを宣言し、世界を革命する話である。
ヴァルヴレイヴの不幸は、とにかく尺の足りなさに追われたことだと思う。
最終話までのストーリーをまともに展開するなら、倍の4クールは必要だったのではないか。
結果として、ヴァルヴレイヴの脚本は相当な部分を削ぎ落とされて完成している。
それが、雑な脚本と呼ばれ、脚本家が逃げたぞ! 追え! とか言われる原因だろう。
確かにヴァルヴレイヴには不親切な部分があるし、ストーリーもやや後味が悪い。
しかし、『学生が巨大ロボットの力を背景に独立し、限られた資源の中で奮闘する』という主題はとても面白いし、製作スタッフは十分な努力をしていると思う。
ヴァルヴレイヴがネタアニメ認定されたのはかなり早い段階で、1、2話の時点ではなかっただろうかと記憶している。
主人公のハルトがヴァルヴレイヴに乗り込み、敵を退け、自身の身体の変化を自覚するあたりの話だ。
ではどこがネタと思われたのかというと、
・敵役のエルエルフが初対面のハルトに、いきなりハムエッグの例えでディスりを仕掛ける
・ハルトの通う咲森学園は、宇宙空間のダイソンスフィア内にあるという設定だが、そもそもダイソンスフィアの解釈が間違っている
・敵ロボットの攻撃でヒロインのショーコが吹き飛ばされるが、もう一人のヒロインであるサキはナチュラルにそれを受け入れ、「彼女は死んだの!」と、恐ろしく断定的にハルトを諭す。
・ショーコの死を悟ったハルトは激昂し、開発者が偶然そのタイミングで敵の手から退避させていたヴァルヴレイヴが、偶然そばのプールへ出現していたため、復讐のために迷わず乗り込む。
・ディスプレイに意味深なテキストと萌えキャラが表示されているが、ハルトはスルーし、動け動けと言いつつ敵に嬲られる。
・戦闘を終えたハルトを、それまで仲間と一緒にいたはずのエルエルフが何故か単独で襲撃する。
ここまでで1話である。
確かにツッコミどころは多いかもしれないが、視聴者側の想像による補完で十分理解できるレベルではある。
結局のところヴァルヴレイヴは、
・尺の都合により省略された、視聴者の想像に頼る部分が大きい
・キャラクターの言動が電波
という2点により、ネタアニメの烙印を押されているといえる。
実際問題、宇宙空間のことを絶対零度だと表現したり、軍艦をスモークで座礁させたりといったことは、それほどクリティカルな瑕疵ではない。前者は科学に詳しい人間でも説明は難しいし、後者はなんだか謎の未来技術が使われているのだと考えれば問題はない。
ヴァルヴレイヴはある意味『アニメ的ではない』キャラクターが、『論理的ではない』言動を展開する。
それが、視聴者に負担を要求し、結果としてイジメのターゲットとなってしまう理由だろう。
●機動戦士ガンダムSEED

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こちらもだいぶ話題になった。
21世紀のファーストガンダムという鳴り物入りで放映され、売上も高く、グッズも多数作られた。ニュータイプ等のアニメ誌での人気投票でも、主人公格のキラとアスランは常に上位、それ以外のメインキャラも、常に20位以内に入っていたほどだ。
そして、アンチの数と勢いも半端ではなく、いまだにSEEDのどこが悪かったのかというテーマで話が盛り上がることもある。
SEEDが嫌われる最大の理由は、上述のとおり、初代ガンダムのオマージュとしての色が強いことだろう。
主人公が暮らしているコロニーで秘密裏に開発されていたガンダム。
敵のモビルスーツが侵入し、戦場となるコロニー。犠牲となる民間人。
パイロットのいないガンダムに偶然乗り込み、圧倒的性能で敵を撃退する主人公。
正規のクルーが死に、緊急的に艦長となった若い士官。
民間人を載せ、敵の追撃に耐える新造戦艦。
それ以外にも、初代とそれ以外を含め、いろいろとオマージュされたシーン、設定が存在する。
そのおかげで、SEEDは○○のパクリとレッテルを貼られ、長くガンダムシリーズ最大の嫌われ者として存在してきた。
しかし、これらのことはオマージュやリスペクトと呼んでいいレベルのことで、過剰反応だったのではないかと私は思う。
少なくとも序盤のSEEDの主題のひとつには、『敵のモビルスーツに乗っている幼なじみと戦うのか』というものがあり、それでオリジナリティは出している。
しかし、すべてがパクリだとしてしまうと、そういった『SEEDならでは』といえる部分を見失ってしまうし、本当に問題視するべき点がぼやけてしまう(正確にいうと、Vガンダムなどはこの主題が当てはまりそうな気がする。しかしキラとアスランはしばらく会っていなかった旧友であることと、ラクスというキャラクターの存在があるため、やはりオリジナリティを認めてもいいと思う)。
SEEDで本当にダメなところは、明らかにスケジュール管理を失敗しているところである。
おかげでやけにバンクや総集編、回想シーンが多いし、ロボットアニメとしては致命的なことに、モビルスーツにあまり動きがない。
『フリーダムが攻撃すると敵が棒立ちになる』と言われるのはその通りで、終盤の主人公グループの行動も相まって、他の勢力と同じ世界の存在として受け入れ難くなってしまっている。
しかしそれ以外は、十分視聴に耐える出来ではあるといえる。 『ストーリーが荒い』『キャラクターの行動に説得力がない』という批判は、ヴァルヴレイヴと同様の理由で流すことができるのではないだろうか。
余談だが、この作品については、∀ガンダムの次に制作されたガンダムであるというのも、不運だったと思う。
∀はすべてのガンダムを総決算し、綺麗に終幕を迎えたため、その次のガンダムだというだけで、相当にハードルが高くなっていたと思われる。
それが、いまさら初代の焼き直しを見せられて(そう思ってしまって)、エンドマークの打たれた大河小説の続きを見たような、『余計なことをしてくれた』といったような感情が生まれてしまったのではないか、と邪推する次第である。
●ヘヴィーオブジェクト

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今期アニメのツッコまれ役は、ヘヴィーオブジェクトだろうか。
上記2作と比べれば可愛いものだが。
完結していないので細かい言及は避けるが、だいたい、『会話が冗長で寒い』『ご都合主義』『主人公たちがタフすぎ』といった意見が散見される。
このあたりは、『B級アクション映画を観るような気持ちでいる』ことが大事である。
ヘヴィーオブジェクトでは、ヴァルヴレイヴとは逆に、かなり親切な説明がなされる。 ただ、それがあまりに無茶だったり荒唐無稽だったりするので、『明示されたストーリーライン』自体が視聴者を選別してくるのだ。
ヘヴィーオブジェクトは、『整備兵が、生身で超強力な兵器を打ち倒す』という話である。 だから、主人公のクウェンサーは、必死で知恵を絞り、敵の弱点を看破し、爆弾一つで強大な敵兵器に立ち向かっていく。
そのヒロイックな姿が物語の背骨であり、多少の無茶やご都合主義は、笑って流してやるべき愛嬌なのだと思う。
ジョン・マクレーンが単身テロリストを壊滅させるのを指して、『そんなのありっこない』と言ってしまうのは簡単だが、それでは物語の根っこの面白さが見えなくなってしまう。
逆境を知恵で切り抜けるのは、古今東西、非常に熱いシチュエーションで、ヘヴィーオブジェクトは、それに真っ向から取り組んでいる意欲作である。
ただし、ヘヴィーオブジェクトの場合、敵は100mを超える戦略兵器であり、このことが問題を難しくしている。
サイズ的に考えれば生身でイデオンに立ち向かうような、『明らかに無理』といえるミッションで、その攻略方法も、膝を打つようなものとは言い難い。
前述したように、無茶で荒唐無稽な攻略方法が、感情移入を難しくしている面はあるだろう。
ダイ・ハードは一流の映画だが、その面白さは緻密な伏線と『こいつならやってくれる』という説得力によって裏打ちされている。
ヘヴィーオブジェクトはその点が弱い。だから、あくまでもB級アクション映画なのだ。 戦車が束になっても敵わないバケモノ兵器を倒すことについて、十分な説得力が与えられているとは、残念ながら言えないだろう。
しかし、ド級サイズの兵器を相手に回して生身の人間が大立ち回りを演じるというダイナミズムは、とても得難いものである。
クウェンサーのヒロイズムと、そのダイナミズムを感じるツールとしてのヘヴィーオブジェクトは、十分な水準にあるのではないかと思う。
なので、あまりイジメないであげてほしい。
なお、会話が冗長で寒いという点は、まったく擁護できない。
おそらく原作小説のやりとりを、映像としてのテンポを無視して輸入してしまったためだろう。
ただ、そのあたりのマイナスは、ヒロインのミリンダの可愛さを鑑賞することで緩和されるはずである。
以上3作品を並べてみたが、どれもSFである。設定が多く科学考証が重要なものは、ツッコまれやすいともいえる。
ただ、このうち2作は原作なしのオリジナル、1作はライトノベル原作であることに注目してみたい。
前者は『原作をうまく映像化できなかっただけだ』という擁護が難しく、『原作ファン』という存在もいない。
後者は『小説でしか通用しないフォーマット』を映像に翻訳する必要があり、制作側の技量が問われる。
そういった理由で、『イジメられやすいアニメ』が生まれやすい土壌があるのではないだろうか。
同時期に放送されるアニメが大量にある現在、ある程度欠点が目立つと、視聴のモチベーションが失われてしまうのは、仕方ないことかもしれない。
だが、欠点が大きいことと面白い作品であるということは矛盾しない。
イジメられっ子を冷静に見てみれば、それまで気付かなかった才能を備えていることを発見することもあるだろう。