傷口にユーゲル

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ハースストーンはなぜ運ゲーなのか

ハースストーン(Hearthstone)というゲームをやっている。


Hearthstone: ハースストーン公式ゲームサイト


ネット上で対戦できるカードゲームである。
対戦相手は世界中にいて、いつでもプレイできるため、友達のいない田舎者には助かるシステムだ。
基本的なルールは単純で、30枚のデッキと1人のヒーローを選び、ミニオン(クリーチャー)やスペルを用い、相手のヒーローのライフをゼロにしたほうが勝ちである。
カードにはコストが設定されており、毎ターン支給されるマナを消費してコストを払い、カードをプレイしていく。ヒーローには固有能力が設定されており、こちらもマナを消費して使う。



運ゲーなカード

ここでタイトルに戻るが、ハースストーンのカードには、やけに『ランダム』という言葉が出てくる。
ちょっと例を挙げてみると、

(ミニオン)
・マッドボンバー
「雄叫び 合計3ダメージをランダムに、自身を除く全てのキャラクターに振り分ける。」
・熟練武器職人
「自分のターンの終了時、自身を除くランダムな味方のミニオン1体に攻撃力+1を付与する。」
・手動操縦のシュレッダー
「断末魔 ランダムなコスト2のミニオン1体を召喚する。」

(スペル)
・魔力の矢
「合計3ダメージをランダムな敵に振り分ける。」
・不安定なポータル
「自分の手札にランダムなミニオン1体を追加する。そのミニオンのコストは(3)減る。」


ちなみに『雄叫び』はミニオンがプレイされた時、『断末魔』はミニオンが死んだ時に発動する効果である。
上記のうち、手動操縦のシュレッダーや不安定なポータルは、一般に強カードとされている。得られるカードの期待値が、コストに比べて高いからだ。
もちろん運次第なため、まったく使いものにならないゴミミニオンが来る可能性もあるが、時には強力なカードを連発し、そのまま押し切ってしまえることもある。
つまり、運ゲーである。

カード単体でもそうだが、ゲーム全体を見渡した時、『引きたいカードを引くべき時に引けているか』という意味での運もまた重要である。
初手に低コストの優良ミニオンを引けているか、相手がミニオンを多数展開してきた時、全体除去を引けているか、デッキにコンボを組み込んでいる時、そのパーツを引けているか。
適切なタイミングでキーカードを引ければ、そのアドバンテージは莫大である。
逆に、デッキが事故ってしまうと、どんなプレイヤーでも勝つことは難しくなる(そもそも事故を起こさないような構築をするべきではあるが)。

また、ハースストーンの場合、強いカードを引けた時と引けなかった時でデッキの強さが変わりすぎてしまうという面がある。
例えば、メカデッキの中核である

メカワーパー
「自分のメカのコストが(1)減る。」

であるが、このカードは2コストミニオンで、自分の『メカ』属性であるカードのコストを軽減できる。
つまり2ターン目にこのカードを出していれば、以降召喚される『メカ』ミニオンは1マナを踏み倒せるため、大きなアドバンテージを稼ぐことができるのだ。
さらにこのカード自身が『メカ』であり、効果は重複するため、仮に序盤に2枚出すことができれば、相手が処理しきれない勢いでミニオンを出すことができ、圧倒的に有利に立てる。さすがにそのような事態は稀だが、実現すれば、大きく勝利に近づくだろう。


●なぜ運ゲーなのか

運次第で、強い相手にも勝つことができる。
これが、問題の核心だと思う。

ハースストーンが運ゲーな理由は、初心者救済のためであり、マンネリ防止のためである。

初心者という言葉は、無課金者と言い換えてもいい。
上記の通り、メカワーパーを序盤で2体並べた相手に対し、上級者でも勝つことは容易ではない。
それでなくても、もし不安定なポータルでドクター・ブーム(超強い)を出されたら相当に苦しいだろう。
運次第で格上に勝つことが結構ありえるというのが、ハースストーンのひとつの狙いではないか。

このゲームにもマッチングシステムは機能しており、対戦時は自分と実力の近い人間と当たりやすいようになっている。
しかし、同じ初心者でもTCG経験者とそうでない者はゲームへの慣れも違ってくるだろうし、もっと直截的に、カード資産の違いもある。

ある程度課金してカードを入手しているプレイヤーの方が、当然有利である。
しかしデッキパワーが低くとも、運やプレイスキルがあれば、レアカードで武装したプレイヤーにも対抗できる。
そういう事実が、ハースストーンのプレイヤー人口の多さに寄与しているのではないかと考えるのである。

始めたばかりの初心者は、知らないカードにボコボコにされる。カードゲームの宿命とも言える。
が、時にはシュレッダーからトーテムゴーレム(でかい)が出てきたり、相手のライフが3の時に魔力の矢が全弾顔面に直撃したりして、プレイングもカード資産も関係ないところで勝利を拾えたりする。
それでなくても、ウィキなどで紹介されている低資産デッキを使えば、けっこういい勝負ができるものだ。資産やデッキ相性、経験不足の不利を、時には運がカバーするという事実によって、初心者は黒星ばかりを積み重ねるという事態から逃れられるのである。

当然、ゲームをするなら勝てなければ楽しくはない。だから、プレイを継続してもらうためのファクターとして、運要素を強く設定しているのではないだろうか。


もう一点、マンネリ防止という点だが、こちらはもう少しヘビーユーザー向けの理由だ。
不安定なポータルからドクター・ブームが出ることもあれば、ウィスプ(最低スペックの雑魚)が出ることもある。そういったプレイするごとに変化する部分が、対戦時のルーチンじみた作業感を軽減してくれるのである。
ハースストーンは、1戦1戦が短く、手軽にプレイできるというのが売りだ。が、その分多くのゲームをこなすことになり、ずっと同じことをやっているという倦怠感が生まれる危険がある。
だから、毎ゲーム違った『ドラマ』を生むために、ランダム要素が入っているのである。
ドラマティックなゲーム展開を演出するには、運という要素が手軽かつ効果的なのだ。


運ゲーとポーカー

運ゲー運ゲーとさんざん書いたが、少なくともランク戦で上位を目指す分には、それほどリアルラックが必要というわけではない。
ランク戦というのはつまりレート戦で、数多くのゲームを行い、その勝敗によってランクが上下する。1戦2戦負けたところでランクが大きく下がるというわけではないし、勝率を上げるという点に意味がある。
運というものは大数の法則に従う。ゲームを重ねれば重ねるほど運は均され、期待値に近づいていく。
この点が、ポーカーにちょっと似ていると思う。

世界的によくプレイされているテキサスホールデムというルールでは、プレイヤーは膨大な数のハンドをプレイする。その膨大なハンドの中で、『勝てる時に勝つ』ということを繰り返すことで、強いプレイヤーは勝ち上がっていくのだ。
1回1回のハンドは完全に運次第だが、数をこなすことで強い手が来たり、適切なブラフを挟んでチップを掠め取ることができる。

ハースストーンにおいても、相性の悪いデッキに勝とうと頑張るより、勝てる相手に確実に勝っていくことが重要である。
それに加え、プレイを続けていく間に流行りデッキのメタを読むことで、勝率を上げることもできるだろう。
そういうふうに、数多くのゲームをプレイすることが前提となっているのが、ポーカーとの類似点である。

これはおそらく、開発元のブリザード社がポーカー先進国であるアメリカの企業であることと無関係ではない。
『運次第で初心者が勝つこともあるが、ゲームを繰り返すことで実力が現れてくる』
というファクターは、実は人気ゲームになるための重要な要素だったと言えないだろうか。


●おまけ

実際初心者デッキでどのくらい勝てるのか気になったので、

Budget Mech Druid / 低コストメックドルイド - ハースストーン日本語wiki HEARTHSTONE MANIAC(ハースストーン・マニアック)

に書いてある低コストドルイドデッキ(ベーシックタイプ)で、ランク戦に20戦ほど潜ってみた。
ちなみに私は最高到達ランク14の雑魚である。

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後半が散々だが、コントロール系とテンポメイジが増えていたので、それに合わせてデッキを変えていったらもう少し勝てたのではないかと言い訳をしておく。
なお、20戦でメカワーパーが序盤に2枚出せた試合が1戦あったが、あっさり速攻を決められてしまった。上でメカワーパーの強さを強調しておいて恐縮だが、ぶん回り具合で負けてしまったので仕方ない。


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