傷口にユーゲル

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漫画感想「橙は、半透明に二度寝する 2巻」

阿部洋一の短編集が完結したので感想。


橙は、半透明に二度寝する(2)<完> (講談社コミックス)


独特な絵柄で独特な世界観を構築する、作者の面目躍如と言える1冊。
どれもこれも心に残るエピソードだが、特に気に入ったのは「発射する手」。
なぜか突然ロケットパンチを撃てるようになった女の子が、悦に入って腕を飛ばしまくる話である。


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腕が飛ばせるようになる瞬間



単体で完結しているエピソードだが、他のエピソードとの関連も少しあって、具体的には「少女と警官」とつながっている。そしてそのつながりがなんだかちょっとした救いに思える。
そういった救いといえる要素は随所にあり、それはちょっとした台詞回しだったり繊細な表情だったりもする。
突き放したような冷たい手触りのストーリーも多いのだが、根底に流れる牧歌的な感じや、とぼけたようなドライさが、読んでいて心地よさを覚えるのだ。


この完結巻で最も大きな意味を持つのは、やはり最終話の「首の皮一枚を超えた日」だろう。
1巻の冒頭エピソードである同タイトルをリフレインさせるような構成。2話から14話までを読ませた上でこれを突きつけてくるセンス。
1巻表紙と2巻表紙を並べてみた時の、なんとも言えない気持ち。
ラストのあたりでは、タイトルの、「半透明に二度寝する」という意味が少し理解できるような気がした。


全体的にビターな雰囲気が漂うが、総じておすすめできる本である。
個人的に阿部洋一は、阿部共実と合わせて『喜怒哀楽のどれにも当てはまらない感情を揺さぶる漫画家』としてカテゴライズしている。
アベするという言葉が昔流行ったが、私の中では、『微妙な気持ちになりたい時に阿部洋一か阿部共実の漫画を読む』という意味である。