傷口にユーゲル

主にアニメとか漫画とか仕事のこと

『TENET』を見てニールのオタクになる

話題の『TENET テネット』を見てきた。ネタバレありで思い返しながら感想。


まず時間遡行がテーマになっている映画だが、その遡行の仕方が普通のタイムマシンみたいなものじゃなくて、通常と同じスピード(といっていいのか?)で時間の流れる方向のみ逆向きになるというもの。だから、普通の時間にいながら時間遡行中の人を見ると、1倍速で逆回しにしたみたいな動きをするし、時間遡行中の人から見ると、周りのものはすべて逆に動いて見える。それだけではなく、逆行中は肺に空気が行き渡らないからなんか変な呼吸器をつけてないと息ができないし、炎に巻かれると凍傷になるらしい。なんか逆行中はエントロピーが減少するだとかで。

前者はまあ酸素分子がエントロピーの減少のために肺の中に拡散しないからとかでいいのかもしれないが、後者は割とマジで意味がわからん。主人公が車に火をつけられて焼死どころか凍傷になりかけるシーンがあるので、たしかに設定として温度の変化が逆になっているというのはあるのだろう。が、『温度が上がる』というのはいったい何が基準なのか。逆行者の体温なのか、その場の気温なのか、燃える対象物の温度なのか。絶対零度に近いほど冷えた冷凍庫で火を燃やしたら、室温はマイナス273度を下回るのか。この設定に主人公を死なせないため以外の理由があるのか。


最初に不満というか疑問を吐き出してしまったが、私はこの映画、とても好きである。特に映像の面白さが白眉で、順行者と逆行者が入り乱れてのアクションシーンは本当に目まぐるしく楽しい。最終決戦の時間の前後からの挟撃作戦は、とても心が躍る。順行組が通常時間で敵地に乗り込むのと同じタイミングで、『作戦を終えた』逆行組のコンテナを吊り下げたヘリが後ろ向きに飛んでくる。そして、ヘリがコンテナを下ろすと、中から逆行組が後ろ向きに飛び出していく。

この時点で担架に乗せられた兵士もいるが、人数の多さを考えると、人的損失は多くないことがわかり、作戦の成功がこの時点で暗示されている。ただし、最後まで映画を見ると、この成功も大きな犠牲を払ったものであるとわかるのが憎いところだ。

戦闘中は銃砲飛び交うドンパチモードで、どう考えても逆行組の難易度が異常すぎる。落ちている瓦礫が突然修復されるのに巻き込まれ、『*いしのなかにいる*』状態になった兵士など、嫌すぎる死に方を強制された者には敬意を表したい。
10分間の作戦のちょうど半分の時点で、時間の前と後ろ両面から同時にRPGが放たれてビルを破壊するシーンは、間違いなくこの作品トップクラスの名場面だ。状況を把握するのに、ただでさえ忙しい頭をさらに働かせる必要があるが、画的な格好良さだけで100点をあげられる。

そしてやはりこの後の、ニールとの別れのシーンがベタながら泣かせる。リュックのアクセサリーというわかりやすいアイテムを強調しているので、『あの時いきなり復活して助けてくれた死体はニールだったのか』ということだけははっきりわからせてくるのが卑怯というかしっかりしてるというか。



●好き(になった)シーン

・主人公と隊長の会話の背後で地味に兵士がスパーリングしているシーン
もしかしてこれは順行と逆行に分かれて訓練してるのでは? ただ冷静に考えると、この時兵士たちはプルトニウムの爆発タイミングまで逆行していっている最中のはずなので、人員的にも回転ドアの確保的にもそんなややこしいことをする余裕はないか。


・ラスボスの妻、キャットが最後に船から飛び降りるシーン
最初のほうの会話で羨ましがっていた女って自分のことじゃんと、ラスボスの死に様も含めて爽やかな気持ちになれる。この2人の会話は前述の最終決戦と交互に展開されて、動と静の戦いを見せてくれる。キャットの暴走のせいで一瞬全人類が死にかけたけども、超壮大な話をされている一方で、こういったミクロな人間関係とエゴが最後の決着をつけるというのも面白い。


・ニールが主人公にダイエットコークを勧めるシーン
ニール……


・空港で主人公が襲撃者を殺そうとするのをニールが止めるシーン
祖父殺しのパラドックスと似ているようでぜんぜん違うシーン。本人から聞かされていたとしても、割とマジで焦ったと思う。


・もうひとりの襲撃者は殺したとニールが言うシーン
お茶目。


・トラックに乗ったニールがクラクション鳴らしまくるシーン。
ニール……



●まとめ

ニールの男気を見るだけで価値がある映画。
平たく言えば現人類を絶滅させようとする未来人と悪い武器商人をなんとかしようという話だし、盛り上がるシーンは嫌でも盛り上がっていると映像で教えてくれる。疲れを感じたら、考えるな感じるんだ的な精神で眺めていれば脳細胞にも優しい。

しかし思いついたとしても普通やるか? というような映像をよく形にしてくれたものだ。制作スタッフの何割がこの話を理解しつつ仕事ができたのか疑問だが、少なくとも出来上がった作品がえらいもんになっているというのは確実である。