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「少女☆歌劇 レヴュースタァライト」総括(神楽ひかり編)

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「少女☆歌劇 レヴュースタァライト」総括(大場なな編) - 傷口にユーゲル



●神楽ひかり

神楽ひかりという人物は、この物語を回転させるために登場した。

1話での登場シーンに象徴されるように、まさに運命の歯車を回転させるための存在、それが神楽ひかりである。

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ひかりの登場とともに、時計回りに回り始める歯車


華恋は『ひかりと二人でスタァになる』という約束があってこそ、キラめきを発揮することができるキャラクターである。それゆえに、華恋はひかりがいなくては愛城華恋という存在たれない。


では、ひかりの側はどうか。


世界で最もレベルの高い、王立演劇学園でトップ2までに上り詰めたひかり。
彼女を支えていたのは、かつての約束や送られてくる手紙を通じた華恋との関係だったのは確かだろう。

けれども、ひかり自身は華恋のそばにいる必要はない、むしろロンドンにいた頃の描写は、『神楽ひかり』個人の能力と努力に焦点が当てられているように思う。

華恋だって聖翔というハイレベルな学生の集う空間で、トップ8に入るレベルの実力があるのだが、ひかりの前ではそれすら霞む。

明確に、ロンドン時代のひかりは華恋よりも数段実力が上として描かれている。幼い日の約束だけで、本当にトップスタァに上り詰める可能性があったのが、神楽ひかりという人物だ。

が、それでもロンドンのレヴューにおいて敗北を喫してしまう。

華恋と離れていた時のひかりには、そこがひとまずの限界だというふうにいえなくもない。


しかし、そうしてキラめきを奪われたひかりが、聖翔音楽学園にやってくることで、華恋とひかりの物語が始まるのだ。


圧倒的な実力を持つが、それだけではやはりトップに立つことはできなかった敗北者ーー。それが、物語のファイアスターターたる神楽ひかりの概形だ。


だが、12年もの月日を隔てて再開した二人ーーしかもひかりはレヴューでの苦い経験を持つーーがスタァに至るための関係を構築し直すには、若干の時間と物語が必要だった。

1話でオーディションに乱入してきた華恋に対して、それまで無感動だったひかりが初めて感情をむき出しにし、「バッ華恋」と叫ぶ。

その心境を理解するには8話を待たなければならないが、華恋とのコミュニケーションすら拒絶気味だったひかりの意外な一面が見られたことは、彼女のキャラクターについてのフックとしてひとまず機能している。

神楽ひかりは無感情な人間ではない。


そして3話における華恋の監禁事件。

この時点でのひかりは、華恋をレヴューから遠ざけることしか頭になく、華恋自身の気持ちはまったく無視している。


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それが彼女に対する心配と善意からなのは確かだが、結局のところ、『二人でスタァになる』という目標からしてみれば無理筋の抵抗であった。

事実、華恋は監禁場所からこっそり抜け出し、一人でレヴューへ出演してしまう。

華恋にしても、この時ひかりへ「勝ってくるから」と慢心丸出しの台詞を投げかけているのが象徴的である。

ひかりは華恋にレヴューそのものに参加してほしくなく、監禁してまで留めおこうとした。

華恋はひかりの真意に気づかず(気づけるはずもないが)、二人の心がバラバラなままレヴューへと突入してしまった。


真矢に敗北するのは必然である。


ひかりがコミュ障極まっているのは何もここだけではないが、それについては割愛する。

神楽ひかりは割とポンコツである。


さて、4話においては、バラバラだった華恋とひかりの心が、電話越しの会話によって少しずつ変化していく様が描かれる。

東京の名所を巡りつつ、脈絡のないぶつ切りの会話が挿入されるのが印象的だ。

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『車輪』を回しながら華恋との距離を少しずつ近づけていく


そもそもこの二人には、決定的に会話がなかった。

12年越しに再開した(しかも華恋からの手紙があったとはいえ、幼児期に別れた)友人が心の距離を詰めるなら、それなりの情報をやり取りする必要があるだろうし、それが積もる話という形で現れたのが4話である。

これ以降、ひかりは大きな成長を見せ、華恋だけではなく、まひるに対しても、「キラめいてる」と称賛してくれ、一人の友人として接していくようになる(まひるに関しては、5話でのまひる自身の成長が大きいが)。


敗北者であった人物が再生するための第一歩は、とりとめのない会話だったのだ。



●8話における転換

本作にとって、物語の転換点が7~9話にあるのは間違いない。

その中でも、8話はひかりのロンドン時代が描かれ、それまで秘められていた彼女の内心、華恋との約束を大切に思っていたことが明かされる。


ロンドンでのレヴューに敗北してもなおキラめきを残していたひかりは、キリンから日本でのオーディションに誘われる。

そこから間髪入れずに差し込まれる口上。

強く握った手のひらすり抜け
奈落に落としたあの日の誓い
再び登る運命の舞台
たとえ悲劇で終わるとしても

99期生、神楽ひかり

すべては、スタァライトのために


スタァライトは悲劇。
キラめきを奪い合うレヴューに参加するひかりも、いずれ華恋と戦うことになる。

フローラとクレールが離れ離れになったように、約束を交わした二人のどちらかは、キラめきを奪われ、情熱を失ってしまうかもしれない。

それでも、華恋は「二人で合格しようよ」と言った。

考えたこともなかったその発想。


ひかりがばななに追い詰められるシーンに活動している舞台装置は、ロンドンでの公演の再現だが、これはひかりの経験した負のイメージというだけではなく、華恋のパーソナルカラーである『赤』に彩られている。

そして、炎は再生の象徴でもある。


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追い詰められているというのは表面的な見え方で、その実、やはりこの炎は神楽ひかりの舞台装置なのだ。

『赤』い炎に包まれた舞台で、ひかりはこの場にいない華恋との約束に背を押され、再び立ち上がる。

そして、二人の約束の象徴である東京タワーが、頭上から落下し、巨大な水柱を作り出す。

もちろん、『青』はひかりのパーソナルカラーだ。


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この瞬間、舞台は完全にひかりのものとなった。


本作、「少女☆歌劇 レヴュースタァライト」におけるオーディションとは、単なるチャンバラではなく、いっそ『生き様の競い合い』と言ってもいい。


歌と殺陣、それぞれの表現がどれほど優れているかという根本的な部分とは別に、そもそも、私たち視聴者にはレヴューシーンの前に舞台少女たちの日常風景が提示される。


それは彼女たちの性格を定義し、関係を構築させ、レヴューの内容にも陰に陽に関わってくる。3話での敗北が、華恋とひかりの齟齬に起因していたように。


畢竟、一言で言えば、舞台少女たちの『生き様』が、レヴューの結果を左右するのだ。


神楽ひかりの背負う物語は、華恋と密接に関わっている。

華恋と連結された二人分の『生き様』は、キラめきの再生産を実現し、キリンと視聴者の驚愕を呼んだのである。