傷口にユーゲル

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『少女☆歌劇レヴュースタァライト再生産総集編ロンド・ロンド・ロンド』感想

諸事情でずーっと見られなかったロロロを1ヶ月ちょっと遅れで観劇できたので、感想をつらつら書いていく。
本編及びパンフレットのネタバレあり。先行視聴者たちの感想は基本的に全部避けているので、特によその感想は読んでいない生の気持ちである。



●舞台セット

まず一番に感じるのは、字幕での補足の多さ。稽古場や教室が何階にあるだとか、星光館が鉄筋造だとか、ポジションゼロがposition zeroだとか、なんとも新しい気持ちで新しい情報を浴びることができる。

で、もちろんこの字幕シリーズで面白いのは、各レヴューでの舞台装置の名称が明らかになったこと。それちゃんと名前ついてたんですねっていう。


・地下第一星空

記念すべき最初の『情熱のレヴュー』で展開されていたのは、『地下第一星空』。『第一』というからには第二、第三の星空もあるのだろうかと気になるが、とにかく星空モチーフのセットらしい。

『レヴュースタァライト』で星空がモチーフの舞台を最初に持ってくるのはなんとも感慨深いが、やはりこれは純那のほうに舞台が応えたということなのだろうか? この時の対戦カード的に、『星』見純那でも『星』の髪留めを付けているひかりでも、舞台のテーマとしてはマッチしていそうでTVアニメ放映時から悩むところだ。

メガネ遺跡は明らかに純那の有利に働いていたけれども、地下第一星空はひかりの有利にも働いていそうで悩ましい。矢避けになるし。そしてラストを考えると、このセットは案外重要なものなのかもしれない。


・鳥バード2018

順番が少し前後して、誇りのレヴューは2番手。しかし鳥バードて。真矢様の舞台にこの名前を持ってくるセンスに脱帽。

パンフレットでも言及されているが、『あまりかっこよすぎるのもよくない』というのは確かにもっともで、このネーミングのおかげで誇りのレヴューがさらに好きになった。シリアスな笑い。真矢様は適度に隙があるのが素敵なのだ。


・メガネ遺跡

渇望のレヴューはそのまんまな名前。遺跡なのは古典が好きな純那の嗜好を反映してたりする?
基本的にはここからレヴューダイジェストといった感じでどんどんレヴューシーンが消化されていくが、曲のアレンジもあって、なかなか飽きない。尺が限られている中で、よく詰め込んだものだと思う。


・魔♡球♡盤withスズダル

字面が強い。「うひゃー」連打からの嫉妬のレヴューは威力が大きい。
レヴュー曲も、『恋の魔球(7回裏)』となり、ファミコンっぽいピコピコ音に進化(?)している。7回裏というのはもちろん野球でラッキーセブンと呼ばれる試合が大きく動くと言われる回のこと。風船も飛ぶ。


・宿怨お屋敷

こちらも字面が強い。記憶に頼って書いてるけど多分間違ってないよね?
約束のレヴューでは、曲が『宵・花咲か歌』となり、全体的にゆったりとしたメロディ、音程の取り方に変化が表れている。
ふたかおの長年の付き合いを踏まえて歌詞と舞台セット名を見ると、また違った味わいがある。


・倫敦大火

孤独のレヴューから。現実に存在した『ロンドン大火』から名付けられている。
ひかりが王立演劇学院時代に経験した舞台のワンシーンを踏まえた舞台セットで、燃え盛る火の中、巨大な手のような形の瓦礫が覆いかぶさるような構図である。

で、これはアニメ放映時から感じていたのだが、この舞台セットはあくまでひかりの経験に準じたものであり、そのモチーフも、『大火』=『炎』=『再生』のメタファーである。さらに炎の赤色は華恋のパーソナルカラーで、その赤の上から東京タワーが落ちてきて水の青に染まるという、割合ストレートなかれひかの表現だ。
つまり、孤独のレヴューにおいては倫敦大火の時点ですでにひかりのキラめきに舞台が応えていたのではないかという想像。


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・99

絆のレヴューから。レーザー光によって99回聖翔祭の意匠が浮かび上がり、99回スタァライトのオブジェが現れる。
このレヴューで特筆すべきは、やはり『星々の絆』のラストワンコーラスだろう。『繋がったの星の絆 いつまでも守るよ』というフレーズをななに歌わせるのすごい。いつまでも守るって実際いつまで? ラストシーンのおかげでまったく安心できない言葉になってしまったんだけども。

劇場版の『星々の絆』はイントロ部分で不気味な不協和音を入れられていて、不穏さが非常にいい。


・ダイアモンド激情

ダイアモンドと激情の間になんか六角形のダイヤっぽいマークが入る。レヴューデュエットはTV版と違って『star diamond』を起用するという名采配。不思議とアニメーションにマッチしていて、その手腕はすばらしいの一言。


・無題

星罪のレヴューにおける舞台装置なしの真っ平らな舞台。ガチ勢が好きそうでエンジョイ勢には嫌われるステージ。
ひかりの過ごしてきた茫漠とした半年間を表現しているともいえるし、なんの色にも染まっていない、どんな舞台にも変化できる舞台だという見方もできる。


・約束タワーブリッジ

監督が思いつきで東京タワーを突入させた舞台。字幕で名前が登場した最初の舞台セットでもある。
やっぱり約束タワーブリッジの文字列を見ると寿命が伸びる。



●キリンとななのパート

劇場版で追加された1人と1頭のなかよしトークタイム。キリンが「もっと声を張っていただけませんかねぇ!」とか接客バイトの先輩みたいなこと言ってるのにちょっと笑った。

各レヴューのあとに、それぞれのレヴュー曲のワンフレーズをななが口ずさんでいるのだが、なんか意図があるのかないのかまったく読めない。単に気分が乗って口にしたくなっただけかもしれない。
強いて言うなら「さようなら うちは旅発ちます」のフレーズを聞いた時におっとなったよね。



●3回繰り返す

ロンド・ロンド・ロンドだけに3回繰り返していくパートがいくつか。
純那のストローと唇の描写が3回(TVアニメでは2回なのに)、まひるの「うひゃー」3連打、地下劇場の深さは東京タワーと同様333m、と、何かと3回を意識しているようなしていないような。



●ラスト10分

めでたしめでたしの第100回聖翔祭からの、どう考えても不穏さしか読み取れないラストパート。
自身の武器『Possibility of Puberty』によって、『地下第一星空』の(もしくは地下劇場の布で巻かれた東京タワーにくっついてた)星のオブジェに磔にされた華恋の上掛け。その背後に横たわる華恋。上掛けや床や肩ボタンに滴る鮮血。スタァライトの星摘みの塔を模した階段に横たわる舞台少女と、流れ出るおびただしい血。赤く輝く星。「舞台少女の死」という、とりあえず不穏なことは伝わってくる単語。

よくわからないなりにヤバそうなことだけは理解できる。これまで本編に出てきた血の表現は、ひかりが自身のスティレットを握りしめた時くらいのもので、それ以外はまさしく舞台らしく、赤い布を使って血を表現するなどされてきた(第1話アバンの女神たち、最終話の階段で眠るひかりなど)。
それがいきなりこんだけ流血されるとさすがにビビる。メタファーなのはわかるが、新作劇場版で彼女らがいったいどうなってしまうのかは心配である。


もう少し考察してみる。肩ボタンに血が滴る描写は、前述の通り、TVアニメ11話でひかりが99組のキラめきを奪うことを拒否したシーンにもある。これをそのまま援用すると、早い話が自己犠牲の表現だろうか。自身のキラめきを守るはずだったボタンを血で汚すことで、自分を貶め、他を活かすという。

じゃあこのボタンは誰のものかという話になるが、やっぱり描写的に華恋? ラストシーンで颯爽登場したひかりも気になるし、ななのボタンコレクションはもっと気になる。つーかなんだよアレ。TVアニメ最終話でキリンオアシスの泉に沈んでたボタン? あれはかれひか以外の99組が『キリンの舞台』からは降りたけれども『かれひかの舞台』は見届けようとしていることの示唆だと解釈してるんだけども。

なんにしても、最終話の『アタシ再生産』を引用するまでもなく、肩ボタンは舞台少女のキラめきの象徴である。それがひとところに収集されているのは嫌な予感しかない。

そしてようやくのEDで、めばち絵が浄化してくれるかと思いきや、まさかのゲーミング舞台少女である。アレは怖い。なんで黒地にクレヨン調のカラフルめばちを選定したのか理解に苦しむ。
いや、ラストのあの展開を引き取ってのEDと考えると、ある意味これ以上ないくらいの絵なのだが、やっぱり怖いものは怖い。カラフルでありながら赤と青の主張が強いのも怖さを加速させる。


●そして新作へ

あまり多くはわからないが、なんかマジな感じの華恋と砂漠と謎の列車音は印象に残った。

申し訳ないのだが、列車と聞くと、古川監督も参加した『輪るピングドラム』の『運命の乗り換え』を想起せずにはいられない。運命を交換した2人に何か関係してくるのかはわからないし特に関係はしないと思う。しないでほしい。



●パンフレット

必読である。監督初め関係者のインタビューに加えて、なんと99組の直筆入学願書が収録されている。特にひかりと香子が面白すぎてヤバい。


・表紙
ロロロのキービジュアルのサイドに花の絵。油絵風のビジュアルは、本編にたびたび挿入されているがどういう意味があるのかは不明。
もう片方には各キャラの色に合わせた薔薇の絵が。棘が多いとか葉が大きい/小さいとか考察できないこともなさそうだが疲れるのでパス。


・口絵
白い水仙のイラスト。特に白い花弁と黄色い副冠は、ニホンスイセンだと思われる。水仙といえばもちろん香子の武器、『水仙花』を思い出すが、特に関係があるかというと疑問。花言葉は『自惚れ』『自己愛』。
副冠を数えるとちょうど9個なのだが、あっちを向いてる花弁もあるので実際にはもうちょっと花の数は多い。

また、再生賛美曲のCDジャケットには、黄色い水仙が描かれている。花言葉は『もう一度愛してほしい』『私のもとへ帰って』。きっつ。



・愛城華恋

めっちゃ主演してるやん……。5歳でひかりと約束した直後に両親に頼み込んでバレエを初めたんだろうなと考えると謎のうなずきをしてしまう。実際バレエも歌もダンスもと、かなり気合の入ったレッスンぶりで、さすがに日本一の音楽学校でトップ8にまで上り詰めるだけはあると思わされる。
あとどうでもいいけど「ぱじゃま・だいありー」めっちゃ見たい。


・神楽ひかり

アントニークレオパトラ」、「ロミオとジュリエット」、「オセロ」と、イギリスらしくシェイクスピアの戯曲に出演している。こうしてみると、華恋はオリジナルの脚本、ひかりは古典に出演していたという対比にも見える。

そして特筆すべきは自己紹介と将来の展望である。
『私のことを本番前に役のことばかり考えていると周囲は心配するけど、本番のあと先生はいつも私に拍手する』とか、『私はどんな悲劇や喜劇でも受け入れられる』とか、『私から溢れる光は観客を魅了するだろう』とか、『私は輝くような舞台女優になるだろう』とか、すさまじいナチュラル傲慢っぷりである。大好き。

それだけならまだしも、『私は親友と運命を交換した』だとか、『すべてはスタァライトのために』とか、それ願書に書くことか? っていう内容まで書かれている。最高か?

華恋もだが、99組の言葉はwant to beではなく、will be で書かれていることが多い。強い。


・天堂真矢

レッスン歴がさすがサラブレッド。志望理由もそつなく、まさしく優等生な感じ。
自己PRでの「目」の演技に関しては、舞台で富田麻帆の演技を見ていると『あー』っていう気分になる。


・星見純那

純那ちゃん長崎の人だったの? そして出身中学のモデルはおそらく長崎大学教育学部付属中学校……ということは、つまり国立である。
何が言いたいのかというと、私立出身のお嬢様が多いっぽい99組の中では、珍しく庶民代表ということである。素晴らしい。

レッスン歴も、「勉強ばかりしてきた」と自分で言っていたとおり、始めるのが他メンバーより少し遅い。芸能活動歴も、地元のデパートのチラシという、どこか涙を誘うような一行。
さらに、自己PRにそろばん二級とか一輪車検定一級とかを書いてるあたりがとってもじゅんじゅん。完全に解釈一致。
中学生でこれらの資格や英検漢検準二級を取っているのは普通にすごいんだけども、あくまで『普通にすごい』レベルなのが本当に純那すぎる。この上で志望動機はとても熱いので、願書1枚ですごくストーリーを感じさせてくれる。


・露崎まひる

純那を超えるシンプルな芸能活動歴『ありません』。いや、バトンや合唱のコンクールは芸能活動には入れないということなんだろうけど、ここまで潔いと逆に強キャラ感が漂う。

実際のレッスン歴を見れば、かれひか真矢並に早く、歌からピアノからバトン、ダンスと幅も広い。バトンの大会でも3位と準優勝と、素晴らしい成果を上げている。

ただ文章は全体的におっとりしていて、『私もあんなふうに笑えたらいいな』『朗らかで優しさに溢れた舞台女優になりたいです』『畑で鍛えた腕力でがんばります』と、他のメンバーに比べて一歩引いたような感じにも見える。


・西條クロディーヌ

子役をずっとやってきただけあって経歴がすごい。また、自己PRでも、感情表現を得意としているといっているのがそれっぽい感じ。他人と比べることよりも最高を追い求めたいと書いているが、実際のクロちゃんを見ていると……うん。


・大場なな

逆の意味で経歴ヤバすぎん? 純那が『人よりスタートが遅い』と気にしていたけど、こいつはこいつで十分遅いのでは。
そして習っているのはクラシックバレエと声楽のみ。芸能活動歴は安定の『ありません』。出身中学は富山の市立。これで本編がアレなのは反則だろ。

しかし中学生で脚本12本書いてコンテストで優秀賞もらうって、やっぱりそっちの才能もあったようだ。
志望動機は読んでると泣いちゃうのでダメ。


・石動双葉

香子に誘われて聖翔に来たので、芸能活動歴『ありません』組。けれども小さい頃から日本舞踊はやっているし、体操も続けていたらしい。というか母親が名取とかいう情報は初出しでは。

舞踏会に出場しては3位を取り、香子が同じ大会で毎度優勝しているという図式があまりにもふたかおすぎてきつい。というか香子がヤバい。

突然の勧誘から受験対策して聖翔に合格し、1年弱で最下位からトップ8にまで実力を上昇させるという時点で双葉の努力も相当ヤバいのだが、このあとの香子が圧倒的すぎてなんだか霞んでしまう。すまない。


・花柳香子

まず1人だけ筆ペンで書いているのが面白すぎる。そして印鑑の迫力もダントツである。
この願書はそれぞれのキャストが実際に手書きしているらしいが、伊藤彩沙は意外にも字が綺麗だということを知れた。思わぬ収穫。

レッスン歴に目を向けると、日本舞踊を2004年から初めている。香子の誕生日は2002年3月3日なので、ほぼ2歳の頃から……? 早生まれであることを考慮しても、幼稚園に入るよりも前の歳からやっていることになる。これはエリートですわ。
それ以降も、茶道、華道、書道、香道、琴、英会話と、すさまじい英才教育っぷり。これは逃げ出しもしますわ。

そして志望理由に至っては、果たしてこれは志望動機なのか……? なんかいつの間にか先生への要求文になっているんだけども。ひかりちゃんを超えるクソデカ自己評価。不遜オブ不遜。これはスタァの器ですわ。

余談だが、双葉とはほとんど1歳違いなことに改めて気づいた。これもまたいとおかし。



・最終ページ

サバンナっぽい土地に真っすぐ伸びる線路と、それを横切るキリンの写真。そして『続劇』という文字の下にロロロのロゴ。このロゴ、改めて見ると電車とかSLの車輪にも見える。


●おわりに

なんだかんだ言ってこの内容を120分にまとめた手腕は脱帽する。最後のアレを含めて、世界人類すべてに見てほしい作品だ。

書きそびれたところで、黄色い照明の低い『ブーン』っていう音を映画館の音響で聞いていると、キリンとななの会話も合わせて、なんだか心が粟立つような気分になる。やはりスタァライトはセリフもセリフ以外の演出も素敵。

華恋以外の『アタシ再生産』が99組メンバーに用意されたのは嬉しいところ。けれども今回は口上を述べたのはかれひかだけだし、映画冒頭から華恋のアタシ再生産が流されたことも考えると、ななの物語に見せながら、やはり中心には華恋がいたということなのだろうか。

とにかく今は新作が待ち遠しい。