傷口にユーゲル

主にアニメとか漫画とか仕事のこと

「このはな綺譚」5話の色彩演出

がとてもよかったので、感想を書いておきたい。


5話のタイトルは、「梅雨送りし」。Aパートの騒々しさから一転、アイキャッチを境にBパートになると色調が落ち、がらりと雰囲気が変わる。

f:id:eno1432:20171106212829p:plain


モノトーンを意識した画面により、梅雨特有の重苦しさを表現しているが、ただ暗いだけではない。

薄闇のようになった世界の中で、主人公の柚が持つ番傘の赤色と、機織りの少女(クレジットより)がいる庵の周辺に咲く紫陽花の青(紫)だけが、際立ってビビッドに描かれている。

f:id:eno1432:20171106212549p:plain


この色彩のコントラストは、赤と青という補色同士の美しさを強調していると同時に、青の中に不意に紛れ込んだ赤という、微妙な異物感を描き出している。

それはそのまま、機織り少女と柚との間に横たわる距離だ。

最初に柚が庵を訪れた時、機織り少女は「邪魔しないで」とにべもなかった。朝食には手を付けていないし、柚に心配されてしまう。

実は彼女は天津神に使えており、梅雨の雨を糸として、虹の機を織っていたのだが、虹の色というのは外側が赤で、内側が紫である。


f:id:eno1432:20171106214256p:plain
wikipediaより、虹の拡大図。


つまりこの時点で、柚と機織り少女は、それぞれ虹の外端と内端という距離に隔てられていたのだ。

それが、柚の鼻歌と褒め殺しによって、だんだんと変化していく。
硬かった機織り少女の表情は緩み、柚と打ち解けていく。

余談だが、機織り少女の「これはまだ未完成、出来あがったらもっと綺麗に…」という冷たい感じだったセリフが、鼻歌後には「でも、これはまだ未完成なの。もう少しで完成するから、内緒で一番に見せてあげる」というデレデレなものに変わったのがグッドである。

f:id:eno1432:20171106220434p:plain
ちょろかわいい


そして次の日、織物が完成したために、ついに長々と降り続いていた雨が止む。

そして機織り少女は、柚に端を持つように言い、完成した反物を広げてみせる。


f:id:eno1432:20171106221156p:plain


ここで初めて画面に色が付き、梅雨が明けて虹がかかったことを表す演出が素晴らしい。

ただ、それだけではなく、『2人で虹をかける』という行動は、それまで赤と青に隔たれていた柚と機織り少女が、確かに心を通わせたことの証明となっているのだ。

最初、単なる異物だった赤は、虹のグラデーションを通して青とつながり合った。柚たちの心の交流が、虹の演出を通して明確に表されている。

画面が美しいのはもちろんだが、『虹』というファクターを上手に組み込んだ、名エピソードだと思う。

なお、『柚』という漢字には、『機織りの縦糸を巻く道具』という意味があるらしい。早くも公式のカップリングが成立してしまったようだ。