「君の名は。」ゼロ距離の断絶
トピック「君の名は。」について
ネタバレ感想。
3年ぶりの新海誠作品は、かなり毛色を変えてきたという印象だった。
まずコメディ成分が強い。男女入れ替わりということで、『胸と股間を触って確かめる』という鉄板ネタが差し込まれるのは序の口で、光渡しまで出てきた時にはちょっと感動してしまった。
東京の男子高校生である瀧くん(父子家庭っぽい)と、岐阜の女子高生である三葉(こちらも片親だが、ほとんどおばあちゃんが親代わり)が入れ替わるわけだから、かなりの苦労があるわけだが、携帯のメモなどで情報を共有し合い、けっこうスマートに状況に対応していく。
なので、必然的に悲壮感はなく、コメディ成分を気持ちよく摂取できるわけである。
ただし、そういうパートはかなり早い段階で畳まれてしまい、話のメインである、『二人が出会うこと』と『彗星の落下への対処』へと続いていく。
展開がスピーディーなので、見る側は休む暇がなく、矢継ぎ早に投げつけられる山場をがんばってさばいていかなくてはならない。
しかし、その情報量の多さが心地よく、最後のシーンまで楽しんで駆け抜けることができた。
さて、新海作品に出てくる男女の間には、たいてい何かしらの『距離』が存在している。
「ほしのこえ」では地球と宇宙という『物理的な距離』と、『二人に流れる時間が違ってしまう』ことだったり、「言の葉の庭」では、教師と生徒という『立場の違い』と、『その日の天気』だったり、「秒速5センチメートル」では、『なんだかわからないけどどうしようもないもの』だったりする。
本作の場合、瀧くんと三葉との距離は、ある意味ゼロである。何しろ身体が入れ替わっているわけだから、新海作品の彼と彼女の関係としては、誰よりも近い。
しかし、実際には二人の間には、3年という時間の断絶があり、『三葉がすでに彗星で死んでいる』という事実による断絶がある。
その断絶を埋め、二人が出会い直すというのが、この映画の縦糸だ。
もちろん完璧な作品というのはないので、本作についても、アラを探そうと思えば探せる。
彗星が衝突して町が滅ぶというのも荒唐無稽といえばいえるし、高校生たちがほとんどテロみたいな真似をして住民を避難させるのも同様である(女子中学生がロボットに乗って宇宙に旅立つのはいいのかという説はある)。
とはいえ、この作品はそういった点を些事と思わせるだけの力があるし、実際そこは問題ではない。
本作は一貫して、瀧くんと三葉の関係性と、二人の成長を描いている。
最初は心霊現象めいていただけの関係が、次第に信頼で繋がり、やがてお互いがお互いに会おうとする。
瀧くんが三葉の故郷を探し出し、彼女に出会い、危機を伝え、三葉はてっしーたちの協力を得、最後には父親を説得する。
この流れが美しいのであって、別に危機は彗星でなくてもなんでも構わない。ただ、映像的にとてもきれいだったので、彗星で正解だったとも思う。
さて、彗星から町の人たちを守ることに成功した二人だが、お互いのことを忘れてしまう。
ここからラストまでは正直ハラハラではあったが、ちゃんと二人が出会い直すことができて、素直に安心した。
「秒速5センチメートル」のリフレインとも感じられるシーンだったが、優しい結末のおかげで清々しい気持ちで映画館を後にできた。
十数年間物語を作り続けてきたからこそ、生まれた作品だと思う。また見返したくなるような、心に残る一作になった。
余談。
てっしーが「ムー」を読んでいるシーンが挟まれているのはなかなかよかった。オカルトMAXな三葉の言葉を信じることの説得力が増える。
余談2。
冒頭に出てくるユキちゃん先生は、やはり雪野先生なのだろうか。避難が失敗したら先生まで犠牲になるので、そういう意味でもハラハラしてしまった。
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