傷口にユーゲル

主にアニメとか漫画とか仕事のこと

「誰が賢者を殺したか?」反省会

なんだかんだいって追い続けていた、「誰が賢者を殺したか?」が完結してしまった。
途中から感想記事も書かなくなってしまっていたが、なんだか植物状態で入院していた友人の最期を看取ったような気持ちになっている。


せっかくなので、最終的な感想をまとめておきたい。

●主要登場人物

・ノエル
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本作の主人公。DNAデバイスを持っていないため、ARを認識できず、相手のハッキングに耐性がある。しかしストーリーの中盤からそれに大した意味はなくなり、代わりに『呪われた公安のエース』も認める洞察力を発揮するようになる。いかにもなカッペしゃべりをするが、単行本ではちょっと口調が違う。麦わら帽子がトレードマーク。


・『盗賊』ゾロ 溝呂木一馬
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友達の少ないギーク。本作の2人目の主人公だった。気がする。AR能力によりフックのようなものを操り、相手の視覚を奪う能力がある。
最初、ノエルとは険悪な仲だったが、和解した瞬間殺害されてしまった。それ以降、謎解き担当が彼からノエルへ移ってしまうのだが、捜査がハッキングではなく嗅覚などの鋭さによるものなのは、さすがに無理があったと思われる。また、人間の言葉を操る猫のアスランを飼っているが、特にストーリーに絡むことなく終わってしまった。


・レッド
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『継ぐ者たち』のメンバー。常にチョコを携帯している大阪のおばちゃんみたいな黒人。毒殺されたマルコさんの入れ替わりに捜査メンバーに加わるが、それは彼の計画通りだった。しかし通話記録を普通に傍受されるなど、本作の登場人物らしく抜けているところがある。
登場して間もなくあっさり正体を現し、いつの間にか退場していた人。


・『一行』の人々
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モブ。『反核の女神』などというヤバい活動家や、うっかり殺人ウイルスを作ってしまった大学教授などもいるが、基本的には各キャラを覚える前に死ぬか最終回を迎えてしまう。
なお、彼らの中の覆面野郎が真犯人、というかその共犯である。『最も怪しい奴が実際に悪玉』という新鮮さが輝いている。


・ニック=フラナガン
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真犯人。実は本編開始前からグラサンと覆面野郎とが入れ替わっていたことが判明するが、どちらも印象に残りづらいキャラだったので驚きはいまいち。『一行』メンバーの『僧侶』フラナガンが、ニックになりすまして犯行を行い、途中から出てきたフラナガンは本物のニックということになる。
しかしそもそもなぜ真・ニックはフラナガンと入れ替わるなどという提案を受け入れたのか、一切説明がない。レッドさんの過去など描写する前に、こいつの過去を説明するべきだろう。もっと言うと、フラナガンはさっさと自分になりすましているニックを始末して、『継ぐ者たち』に殺されたように見せかけた方がよかった。セーフハウスで四六時中一緒にいる『一行』のメンバーに、入れ替わりがバレなかったというのは苦しい。


・古東官房長官
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ノエルの等身大ダッチワイフを抱いて登場した衝撃の人物。しかしその変態性が発揮される前に本編が終了したため、ストーリー上特に何もすることもなくフェードアウトした。


●本作の問題点

とにかくキャラが薄い。新登場したキャラクターも、感情移入どころかその輪郭すら掴めないまま殺されていく。
真犯人がフラナガンだと明かされた時も、キャラ立てが弱すぎたせいでまったく感情を動かされないのは問題だ。

この点については、出し惜しみせずにさっさと『一行』のメンバーを登場させてほしかったところだ。彼らが全員揃ったのは、全34話中の19話目。それまでには被害者のダーゲンハイムと溝呂木くんしか明らかにされておらず、3人目の布袋教授が出てきたのがようやく12話である。しかもこの頃には、FBI捜査メンバーをはじめ、日本警察の面々、レッドさん、『呪われた公安のエース』などが次々登場しているため、どうしても各キャラに割けるページは少なくなり、結果として全員の印象が薄くなってしまった感がある。


殺し方も雑さが激しく、寝込みを襲って刺殺、ノエルがいないと見つからないような血文字を残し爆殺、宅配便やペットボトルに仕込んで毒殺など、舞台設定を活かしきれていないのはともかく、笑いを誘うような方法が続く。監視の目を盗んでそれを行えたのは、フラナガンのハッキング能力によるものと説明するほかなく、トリック的なものはこの作品に存在しない。

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緊張感をも殺しにくる継ぐものボックス


キャラクターの薄さと退場の雑さが組み合わさり、緊迫感の欠落したままいつの間にか終了してしまった。

また、割とどうでもいいが、タイトルがあまり内容を表していない。

さらにどうでもいいが、『まことの英雄』、反核の女神』、『リトル・ゾロ』、『呪われた公安のエース』など、二つ名のセンスが微妙。


●本作に期待していたこと

ミステリ的な要素は置いておいて、2話のような外連味を前面に出して画面の面白さを追求してほしかった。せっかくのDNAデバイスとAR社会の設定が完全に死んでいる

FBIの捜査は行き当たりばったりで、前述したキャラの薄さにより、犯人探しとしての面白さは求めようがないため、世界観を活かして『一行』のすごさを強調していくだけでもだいぶ違っただろう。
それなら、とりあえず誰かを殺して次回への引きを作るにしても、雑なやりかたで興ざめさせるようなことは少なかったはずだ。


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溝呂木くんの全盛期


溝呂木くんは相手の視覚を奪い、布袋教授はペースメーカーを直したが、同じように他のメンバーにもわかりやすい特殊能力があって、それを駆使して捜査を進めていく形なら、陳腐ながら読者を引っ張るフックとして機能したように思える。

もちろん8人もいる『一行』全員にそんな設定を付けるのは大変だろうし、ネタ切れの危険もあるが、ダーゲンハイムの能力を示唆する台詞もあったし、当初はそういう構想もあったのだろうと想像できる。

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とにかく、オリジナリティのある舞台設定を使い切ってほしかった。ノエルも当初はDNAデバイスをインストールしていないために、逆にARを無効化できるという特異性があったが、その設定もすぐに死んでしまったのが残念。


●まとめ

当初から光るものはあったし、それだけに惜しい作品だった。
キャラクターはもう少し絞って、それぞれの魅力を引き立たせることができたら、もっと良くなっていたと思う。

『一行』のメンバーを8人とし、1話の時点で全員の名前を出していたのは、物語の奥行きを与えるのには役立っていたが、終盤は足枷になっていたといわざるを得ない。個々人のキャラクターを立たせるだけのページ数か、強力なエピソードが必要だった。


誰が賢者を殺したか? 3 (ジャンプコミックス)

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結局単行本表紙のバッテンも、ダーゲンハイムにしか付かなかったというのが悲しい。