傷口にユーゲル

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『蒼穹のファフナーTHE BEYOND』7~9話 感情の肯定とスーパーロボット

だいたい1年ぶりの新作ファフナーは異様に熱かった。


●真矢

とうとう母親まで亡くしてしまった真矢。7話ラストの慟哭が悲しい。
真矢は無印では日常を象徴する個、EXOでは戻り難い戦闘単位としての個を印象的に演じている。BEYONDの真矢は、総士にとっての怖い姉、同時に、第1世代として多くの者を見送ってきた兵士である。

しかし、今回の慟哭は、兵士として削ぎ落としてきた感情を一気に爆発させたような印象を持った。EXOのラストでビリーを腕に抱き泣いたように、EXO以降の真矢は普段あまり感情を見せないぶん、それが解放された時の情動が胸を打つ。

今作で、美羽とともに肉親と呼べるのはお互いしかいなくなってしまった。来てくれ……ジョナミツ……。



●怒り

感情という点では、今回焦点を当てられていたのは『怒り』である。
美羽に対して「怒ってもいい」と言う総士。自分のせいで友人や母を亡くしたと悲しみ、物分りのいい子供でいざるを得なかった美羽。
この2人の対話は、ファフナーのテーマをよく表している名シーンだと思う。

島の真実を知っていた旧総士と、知らなかった一綺。命令され自爆するつもりのカノンと、それを力で止めるよりも対話を選ぶ一綺。ミールの意志を抗えないものとする操と、お前の神様に逆らえと言う一綺。

対話はファフナー主人公の大きなファクターである。
この美羽と総士の会話、そして遠見家での食事シーンを見て、総士が異邦人として、遠見家の家族として、そして主人公としての存在を確かにしたと感じた。



●マリス

そして、総士とは違う方向へ怒りを煽るのがマリスである。
このキャラクターの解釈は実に難しい。今回、使者としてやってきた際、同胞だったエスペラントからも、「人類の裏切り者」「エスペラントの面汚し」と罵られ、ルヴィからは「裏切り者ですらない」と断じられる。

それに涼しい顔をしていたかと思うと、各シーンでビビりが入っていたり、個人的な憎しみで動いていたりという小物っぽさが浮かんでくる。6話までと比べてミステリアスさがやや薄れたというか、人間的な矮小さがにじみ出るような印象を受けた。

もっともマリスはボスキャラなどではなく、総士や島民に立ちふさがる『人間』というポジションであることを考えると、そういった印象は正しいものなのかも知れない。


『憎しみで戦わない』という史彦の信念は、ここでもやはり貫かれる。
唇を噛みながらも、気色ばむ溝口を止め、マリスへ向けて、堂々と復讐ではなく抗うことを宣言する。


怒りと憎しみはどう違うのだろうか。

辞書的に言うと、憎しみとは、誰か、何かをひどく嫌い、いなくなればいいと思うことである。
怒りは、より原初的な感情ーー特に、自分や自分の大切なものが危険にさらされた、というような時に想起される感情である。

憎しみはそれをぶつけるべき対象があり、怒りはそれ単体では感情の昂りに過ぎない。


総士は怒りを否定していない。感情を持つこと、それを発散させること、誰かに吐き出すことを肯定している。

もっと言えば、『自分勝手であること』ーー命令に逆らい、自身の意志で行動することで、マリスによるアショーカへの干渉を防ぎ、零央と美三香を救っている。

異邦人である総士がいることで、美羽を始めとする島民に変化が生まれ、その『自分勝手な』行動により、救われる者がいる。

そして同時に、異邦人であるマリスのために、パイロット候補生は奪われ、総士は創られた世界に囚われ、島民に多くの犠牲が出てしまった。


特にEXOから明確に描かれているが、ファフナーは『フェストゥムとの共存』と同時に、『人間同士の協調』を主軸に置いている。

島に核を撃ち込まれかけ、アルゴス小隊に仲間を殺され、同胞として迎え入れたエスペラントに裏切られるという仕打ちを経てもなお、本作の哲学は『人間は信じるべき』『憎しみで戦ってはならない』である。

ひどく困難な選択であり、マリスの存在はそれをさらに際立たせる。


しかし同時に、総士のメッセージは、『怒りを吐き出すこと』である。

島の理念を身をもって示す史彦や、急速に成長させられ、エメリーの命を背負わざるを得なかった美羽との対比として、この根源的な感情への肯定には感じ入るものがある。

憎んで戦うことは駄目でも、感情そのものを殺すことはしなくていい。
マリスのやったことは許せないし、怒りを抱くことは自然なことだ。

そういった人間としての情動への優しさが垣間見える。



●リフレイン

HaEからこっち、ファフナーにおける過去シーンのリフレイン演出は多く見られるが、今回はより強烈に印象を残す。
まずシャオの夫が撃墜されるシーンの、戦闘機の上から影が差すようなシーンが、無印1話の戦闘機部隊全滅シーンに重なる。

鍋に温度計を差し込んで料理を作るのは、EXO1話(長尺版)の総士そのものだし、その後の食卓は、幾度も描かれている『家族の団欒』、特に『新たな家族との交流』ーー真壁家&遠見家、御門家&水鏡家、立上家&織姫といったようなーーである。

葬儀の後の真矢は、父を亡くし決意を固めた生駒祐未と重なる(しかし真矢には上記のように新たな家族がいる)。総士の台詞「その価値に感謝する」も、もちろんRoLのラストである。ちなみにこの台詞を聞いたのは蔵前だけなので、「おまえ同じこと言ってんな」と突っ込めるのは視聴者だけである。悲しい。


そして9話、海溝に沈んでいくスサノオツクヨミ、深海に漂うマリンスノー、同化現象の末期症状により結晶化寸前の肉体、フェンリルのカウントダウンと、『第二次L計画』というタイトルどおりの、RoLのリフレイン。

正直、視聴しながら『これは駄目か……』と思っていた。

しかし実際のところは、総士が命令を聞かず、独断で助けに行き、結果的に2人の肉体は救うことができた。『単独で動くな』という師匠の教えを無視したことで、結果的に救える人間を救えたのだった。

RoLにおいて、僚と祐未を助けに向かったのは蔵前だったが、今回は総士自身が直接助けに向かったことになる。

ここで、その直前のパートに注目してみたい。

RoLでは、総士は2人を助けたいがために、CDCへ『実践を経験した機体とパイロットの貴重な情報を回収するべき』との論理を提示し、一度は接続を奪ったマークツヴァイのコントロールを蔵前に返し、救出に向かわせている。

一方、BEYONDでは、純粋な感情そのままに、助けたいという一心でまっすぐ2人のもとに駆けつけている。そして、その際に口にするのは、「ゴウバインプログラム、起動」である。
かつて「そんなプログラムはない」というツッコミを入れてられていたゴウバインプログラムは、ほとばしるような感情を乗せられ、論理を捻じ曲げる気合の雄叫びとして総士の味方となったのだった。


ともすると、ご都合主義とも思える展開である。

しかし、ご都合主義をこのタイミングで、この演出で出してきたのが最高に熱い。


かつて敵に囚われていた新参者。警戒されながらも徐々に島の一員となっていき、美羽やその周辺の人物に新しい風を起こす。
そして、師匠を救うために、教えを破り、感情のままに行動し、ギリギリで間に合う。
ついでにスサノオツクヨミを同化して、ザルヴァートルモデルであるニヒトをさらに進化させていく。


こうした『怒りで強くなる』みたいな少年漫画的な主人公ムーブを、総士が行っていることに感動を覚える。ここのニヒトは完全にスーパー系ロボットで、その道理を飛び越えて気合でなんとかするという感じが、感情の肯定を見せた今回の話において強烈に輝いている。

結局零央と美三香は末期症状で動くことができないままだが、さすがにこの流れで助からないということもないだろう。たぶん。



●その他

・マークアレス、完全に魔王だったけど10話以降で活躍するんだろうか。ニューニヒトとツインドッグしたら地球削れそうなんだけど。


・ニューニヒトの登場シーンは、1期ザインのように、冷めた溶岩が卵みたいに割れてそこから生まれるようなイメージ。ザインが生まれ変わったように、ニヒトも新たな形として生まれ変わったということなのだろう。ミョルニア(紅音)から一綺が継承したように、師匠や島民から総士が受け取ったものの象徴としてのニューニヒト。そんな感じ。


・あと3話……今回のテーマ的に、マリスを倒しておしまいという形にはならなそうだが、どうなるんだろうか。